本

『くらげさん』

ホンとの本

『くらげさん』
新江ノ島水族館監修
ピエ・ブックス
\1890
2010.8.

 正方形の本の表紙は、水の青とぷかぷか浮かぶミズクラゲたち。中央に縦に、「くらげさん」とペン書きのようなフォントで白くシンプルに。まるでその文字までがクラゲの一種であるかのように立っている。
 もう、この表紙を見ただけで、捉えられてしまう。
 クラゲはいい。当人は必死で泳ぎ、エサを捕まえているのだろうが、端から見ると、ふわふわ呑気に浮かんでいるだけのように見える。何も考えず、流れに任せているだけのような彼ら。クラゲになりたいと思ったことのある人はたくさんいることだろう。
 よけいな言葉はいらない。この本は、写真集である。タイトルの「くらげさん」と、発行所のアナウンスが少しと水族館の名前のほかは、文字が一切見られないままに頁をめくっていくことになる。そして終わり5頁になって、「くらげさんについて」という、一番文字の多い頁がひとつ現れる。ここがまたふるっている。「脳はありますか」「なぜ透明なのですか」「なぜ泳ぎ続けるのですか」といった質問が寄せられ、水族館という専門家の立場から短く、しかし詳しく、適切に回答している。量的にも必要十分なものであろう。その後には、写真集に収められたクラゲたちの名前が明かされ、簡単に解説が付せられる。
 クラゲの中には、激しい毒をもつものもある。そうした注意もあるから、単にきれいだなでは済まされない点もあるのだが、光を受けると実に美しくきらびやかに輝く。その輝きが動くものもあるから、こうした写真だけでは十分に伝わらないものもあるのだが、そうした細かなことはもうどうでもいい。できれば、一枚一枚に時間をかけ、のんびりと見つめていたい。一日で全部見なくていい。ひとつの写真にひとつの出会いを覚えて、その一枚にしばらくの間見とれていたいものである。いや、そのクラゲとの対話を楽しみたいものだ。今日何してきたの? 気分はどう? その足、絡まってるよ。
 この本のタイトルが「クラゲ」であったら、無粋に終わっていたかもしれない。やっぱり、このタイトルに座布団三枚くらいあげたい。「くらげさん」なのだから。




Takapan
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