『人はクマと友だちになれるか?』
太田京子
岩崎書店
\1260
2004.7
2004年9月から10月、日本列島は、クマの出没のニュースが相次いでいた。
人里に現れたクマによって、怪我を負った人のことが報道されると、人々は恐怖におののいた。森の中でクマさんに出会った程度のことではないことは、誰もが皆分かっていた。
だが、徒に怯えるのであってもいけないし、だからといってクマを全部殺すというのがどうもおかしいということにも、人々は気づいていた。どうすればいいのだろう。
知は力なりという。
私たちは、そのクマについて、どれほどのことを知っているというのだろうか。では、どうしたらそのクマのことについて、知ることができるというのだろうか。
その答えが、この本に詰まっている。だから、お薦めする。
小学生にでも読めるように、ふりがなも付いている。文章そのものも、読みやすい。それでいて、クマについての知識は十分すぎるほどよく分かる。
この著者は、児童文学の観点からクマに関わったものだろうが、クマに対する愛情あるいはクマと人間との関係についての使命を感じてから、クマのことを人々に伝えなければという思いに包まれている。
軽井沢での取材を中心にまとめられた様々なレポートであるが、日本全体におけるクマのこともアドバイスしてある。また、クマには出会わないことが一番だが、もし出会ってしまったらどうすればよいか、そうしたこともきっちり教えたいととの思いで綴られている。
分かりやすい本というものは、たとえ情報量が少なくても、勉強になる。読んでよかったという思いになる。高尚な本でも理解できなければ、読んで何だったんだろうという思いになる。
最後のクマについてのQ&Aのように、冷静に淡々と疑問点についての解答を並べられると、私たちは、もうずっと前から、クマについて沢山の知識があったかのような錯覚さえ起こす。それは、本としての成功にほかならない。
クマを守らなければならない、という命題に論理的な根拠は希薄なのだが、私たちは、人間として何ができるのか、という問いを突きつけられていることに、否応なしに直面させられる。
解答はない。私たちは、私たちの生き方を含め、たくさんの問いを突きつけられていることになるのである。