本

『ぼくらの言葉塾』

ホンとの本

『ぼくらの言葉塾』
ねじめ正一
岩波新書1215
\735
2009.10

 詩人、ねじめ正一。近年、詩のボクシングでの戦いが話題に上る。詩を朗読することが、バトルになるという、これまた詩のように意外なものが出くわしたようなものに見える。しかし著者が初めから詩の朗読をよしとしていたのではなく、詩人の朗読ほどえげつないものはないと感じていた中、その世界に目覚めていくようなきっかけがあったのだという。
 こうした、詩にまつわる背景がいくつか綴られている。まるで著者の詩の秘密を暴露するかのような勢いである。
 言葉を生業としているだけあって、説明する言葉も厳選されたものとなっているように見える。作家でもあるということを別にしても、読ませる技術が相当にあると見なさなければならない。ぴたっとはまりこむ言葉を探して苦悩するのが詩人の役割でもあるわけだから、書かれてある文章の世界にずんずん引き込まれていき、元に戻れなくなっていのを、読んでいるときに幾度も感じた。
 その言葉遣いが的確であることに加えて、好感がもてるのは、誰か人のことを持ち出すにあたり、悪口など少しも言わず、その良いところを褒めるような姿勢で、ひたすら善意に紹介していくところである。偶々かと思ったら、この本の全体において、それが徹底的に貫かれていた。読者のほうも、良い気分で、安心して読んでいくことができる。それだけにまた、書かれてあることが真実味を帯びて迫ってくる。確かにその通りなのだろうな、という安心感と共に受け止められていく。
 人物ばかりではない。絵本そのものについても、妙に高いところから見下ろした批評めいたものの言い方は少しもない。こういうのは、簡単そうで、なかなかできるものではない。つい、皮肉のひとつでも言ってやりたくなるのが人の常である。しかしこの本の著者にはそれがない。澄み切った言葉の世界にいて、目に映るあらゆるものを眩しい光の中に見出しているかのような世界である。
 詩の朗読という分野で有名であるのだが、子どもと詩の出会いについても実に熱い思いを抱いて接してくれている。そして読者たる私は、やはり所詮学ぶ生徒の側に居続けるしかない身分なのだと思い知らされる。それでも、この言葉塾、一方的に先生の説明を聞くしかないと思うのだが、不思議な魅力で、その正確な日本語の使用という点などにおいても、もっと教えてもらえるのではないかという期待を裏切らない本である。
 シンプルで、実に的確な解説であろうと思う。




Takapan
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