本

『子育てがつらくなったら読む本』

ホンとの本

『子育てがつらくなったら読む本』
宮田雄吾
情報センター出版局
\1470
2004.5

 著者は精神科医。長崎で情緒障害児のための施設を開設し、被虐待児や思春期の精神医療に関わっている。1968年生まれという若さが信じられないほどだ。
 実に癒される本だった。タイトルは誇大ではない。子育てに限らず、何にしても人を相手にする職業や立場にある人は読んで損はない。私の心に響いたのは、家でも子どもを相手にしているが、仕事でも子どもに向かっているせいかもしれない。これは教育者は必読ではないかという気にさえなってくる。
 マニュアル的に解説し、それに従えばよいのだというふうに考えてもらいたくないために、統一感のあまりないQ&A形式で、見開き2頁で一話完結という形をとっている。なんだ、それならもっと詳しく説明しなければならないところを短く切ったりしているのか、などと勘ぐる必要はない。私の「炭火」もそうだが、スペースが限られたものに対して記述しようとすると、実に磨かれた文章(私のものが磨かれているという意味ではないのだが)になる傾向がある。分かりやすさと必要十分なものは何か、いったい書いている自分は何を伝えたいのか、がどんどんはっきりしていくのである。
 形式のことはもういいだろう。もっと内容に接近してみよう。
 この本は、たとえば76〜77頁を読むためだけに開いたとしても、損を感じさせない本である。そこでの質問は、しつけと虐待の違いについて教えてください、というものだった。これに対して著者は、「アビューズ」(abuse)という言葉を説明する形で答えている。この言葉こそ、「(児童)虐待」と訳されている元の言葉なのだという。その本来の意味は「子どもを正しくない使い方で使う」ことである。となれば、「正しく」使うとは何かが気になる。著者は語る。「弱い存在である子どもの求めに応じて、強い存在である大人が必要な援助を与えるということ」である、と。それに対して、大人の都合が優先されづつれば「アビューズ」になるのだという。
「虐待を加える親は、子どもの要求や都合、さらには年齢を考慮しません。いますぐ、大人が満足を得るために叩いてでもしつけようとします」
 最後には、大人の振る舞いが本当に「子どものため」なのか十分に考えるよう促している。
 質問の内容には、しばしば子どもの年齢や学年が全く書いてないものが多い。私は最初、年齢が指定されなければ、回答としては違ってくることがあるのではないか、と案じた。しかし、その心配は不要だった。本質的な「癒し」というものは、相手の年齢に左右されるようなものではないらしい、ということが、読み進むうちに分かってきたのである。
 そして、原理的なアドバイスを元に、読者は、自分と自分の子どもの場合には、この回答はこのように活かされてくるだろう、と考えるようになってくるから不思議である。
 そう。Q&Aで一見ばらばらに散らされているような構成であるということは、読者は、自分はどのケースに当てはまるのか、自分はどのように対処すればよいのか、考えなければならないということである。この「考える」ところが、単なるマニュアルにはない。単なるマニュアルは、「考えなくてよいからこの通りにやれ」というものである。だが、人間相手に、そのような規則やルールといったものは存在しない。一人一人が、目の前のいのちに向かって、考え、悩んで、対処していくしかないのである。
 回答も健全で、そして私が経験してきた子どもの姿とも一致する。見かけは地味だが、これは実によい本だ。まさに、精神科医のカウンセラーにすきっとさせてもらったような読後感を抱くことができるだろう。




Takapan
ホンとの本にもどります たかぱんワイドのトップページにもどります