『これが現象学だ』
谷徹
講談社現代新書1635
\720+
2002.11.
フッサールの現象学について解説する。現象学はもちろんもっと幅広いし、応用までを視野におくとかなり拡がる。だが、その始まりはフッサールだとしてよいだろう。だから、本書は広い見識を誇るようなことをせず、フッサールに絞り、フッサールの考えを伝えることに専念している。
そのとき、巷に出ている様々な現象学の解説に対する不満を露わにする。それぞれよく理解している人が書いてはいても、読者が読んで理解するには不適切なものではないか。否、本当に不満はそれ以前のものである。たとえ内容的に優れていても、時代的に古いため、新しい資料を欠いたことになっているものもある。また、面白く書かれていたとしても、ひどい誤解に基づくものや、曲解と言うべきものも確かにあるというのだ。理解の浅いものもあるわけで、現象学の専門家としては、そういうものが出回っていることをよしとはしたくないのであった。
著者は言う。「そこで本書は、現象学を、まず基本的な諸着想にまで分「解」し、そこから――その変化を追えるように――再構成しつつ「説」明したいと思う。」(p10)こうして、徹底的に「解・説」することをめざすのだそうである。
さて、その成果はというと、特に前半は、ゆったりと解説してくれ、初心者の歩みに速度を合わせてくれるように見えた。だが、それで読者も安心していてはならない。それだけ歩けるならば、もうこのスピードでも大丈夫だろう、というふうに、後半はてきぱきと話が進んで行った。こうした哲学思潮の解説は、基本概念を伝えるためには十分な時間をかけるべきだが、それを受け容れてくれたと思われたら、思索の流れを速くするものである。それはもちろん間違ってはいない。新書という量的な制約があるために、ずっとねちねちと説明している場合ではないのだろう。読む側も、そのことに気をつけながら、前半を焦らずに読んで歩くことが大切であろう。
とはいえ、哲学の理念というものは心得ておくべきで、「複数の「自分自身で考える人たち」が「ともに哲学する」ときにこそ、事象そのものに新に接近することも可能になる」(p17)と宣言されている。この点は、本書の本文の結びにも言及されているたら、本書の重要な主題であると見てよいだろう。
内容は直に読んで戴くこととして、本書の構成をご紹介することにしよう。フッサールが数学からその思索を始めたことに触れ、「学問の危機」を問題としたことを、その哲学のスタートのように扱うことになる。思えばカントもそうだった。自然科学の成功の時代に、哲学が危機に陥っているとの認識があった。フッサールの場合、19世紀後半から、第二次世界大戦が始まる直前までの人生であったから、ヨーロッパという場面での学問について、危機感を抱いていても当然であろう。
著者は、分析哲学と遠近法のことを「コーヒーブレイク」というおつまみ的なコーナーでに添えながら、心理主義との関係やアプリオリを考える点でのカントとのつながりなどに触れながら、最も根源的であると思われる「直接経験」の概念を説く。ここでは幾度も「コーヒーブレイク」を合間に置き、日本語でものを考えるときのアドバイスや、ちょっと本筋を外れた議論などをかませてゆく。これが、ゆったりと分かりやすく伝えるためのコツではなかったか、と私は考えている。
もちろんここで、重要になるのは「ノエマ」という捉え方である。「諸現出と一体的に捉えられたかぎりでの現出者」だという説明があるが、この辺り、順を追って読まなければ、用語についてついてゆけなくなるから、焦ることなく著者と共に旅してゆくのがよいと思う。
それから、「世界」とは何かを現象学の中でどう捉えるかについて考え、そこに伴う「時間」と「空間」という意味について問題を深めてゆく。「世界」は「自我」と共に描かれるものだろうが、やがてそれは「他者」とは何か、という話に展開してゆく。ライプニッツのモナドでも、他者との関係が問題とされたが、フッサールはそれをフッサールなりに克服してゆく。著者に言わせると、このフッサールの他者についての現象学を、多くの本は正しく捉えていない(p222)と嘆いている。ここが、本書のポイントであるかもしれない。が、ここについて割かれた頁は、それほど多くはない。
フッサールの現象学は、静止的なものではない。その人生の中での発展や展開がある。変遷とまで呼べるものもあるかもしれない。その変化を最後まで辿ることなく、フッサールは世を去った。だから、私たち読者が、「自分自身で考える人」として「哲学する」のでなければならないのだ。
なお、巻末に簡素ながら、用語解説のページが用意されている。ささやがてあり決して十分なものではないが、これの存在を、本の冒頭で強調して教えてくれていたら、それを参照しながら確認することもできただろう。そこが、少し悔しい。

た
か
ぱ
ん
ワ
イ
ド