本

『困ったときの子育て相談室』

ホンとの本

『困ったときの子育て相談室』
河合隼雄・古平金次郎・滝口俊子・e-mama編集部
創元社
\1,500
2003.10

 インターネットには、子育てに関する総合サイトが幾つかある。互いに悩みを考え合うところに人気がある。しかも、雑誌のように採否の区別がなく、共感さえしてもらえれば、返事は沢山くる。まるで井戸端会議をしているかのようだ。しかも時間が制約されず、自分の来たいときに来れば、話題が待っているというわけである。専門家に尋ねるのも大げさなふうだし、またそれではいかにも専門家的な回答が来るのではないかと身構えるにしても、同じ子を持つ親が経験からそうだよ、と言ってくれるとなると、話が違う。
 そんなサイトの一つ、e-mamaが、一つのまとまった形にして、子育てに関する知識を本という形にしてみた。ネットで成功しているものを、どうして本にするのか。そんな疑問をもつよりも、この本を垣間見るがいい。偉そうに学者が大上段から自説を解くのではない。かといって、素人がただもやもやと終わりのない会話に明け暮れているのでもない。心理学や小児科、心理士として名を馳せた面々が、専門知識を以て、ただしそれはあくまでもネットに寄せられた声へのコメントとして語るに留めるような口調である。
 この「程よい温度」に驚く。説教調でもなく、無責任なお喋りでもない、さりげないアドバイスが、実に現代的なのである。これなら、実のところどうしてよいか分からないといった親たちも、賛同したくなるのではないか。なるほどそうだったのか、それならこうしてみよう、といった気持ちになりやすいのではないか。
 本の内容は、ほとんどが文章である。写真も、ことさらに解説めいた図解もなく、ただちょっとしたカットが隅にあるに過ぎない。その意味では、実に地味な本である。それなのに、読んでいるときには、文ばかりで地味だなどのような気持ちは感じることがなかった。なぜか。読めるのである。すうっと、自然に読めるのだ。このことは、言葉ではうまく説明できない。拡大縮小なしに、等身大の相手に接しているかのように、この本での語りは、ヴァーチャルな同士をそこに置いているつもりになる。
 ただ、それでも担当者の考えというものは、色濃く反映してくる。必ずしもそれが唯一の善なる道ではないという理解の下に、親たちは、自ら考えつつ歩んで行かねばならないことは言うまでもない。子育ての問題の一つは、親たちが自ら考えなくなったことである。自分ではどうしてよいか分からない、自信が持てないといった背景から、判断中止の状態に陥っていることが、大問題なのである。
 それにしても、この実践的なパワーは、他に類を見ない、と言えば大げさであろうか。大いに参考になる内容であった。




Takapan
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