本

『あなたを悩ます困った人』

ホンとの本

『あなたを悩ます困った人』
柴田豊幸
幻冬舎
\1300+
2018.1.

 いかにもハウツー的であり、心理学の解説をするためとはいえ、「困った人」という文字がやたら大きな表紙からは、この社会、身の回りに「困った人」がいてしようがない、と思う人が実に多いものであろうという実態が伝わってくる。
 さらりと知るには良い本である。実にコンパクトに、そして類型的に、様々な心的障害の現象が見て取れる。手っ取り早く当てはまるかどうかはチェックするのに適している。
 しかし、それでよいのだろうか。もちろん本書にも、この項目が当てはまるように見えるからと言って、その診断が適用できるかどうかは簡単に分かるものではないということを注意書のように記している。しかし、読者はそんな点を配慮するとは限らない。「やっぱりあの人はおかしいんだ。ここに書いてあることにいくつも当てはまる。きっとこの障害なんだ。そうか、そうだったんだ」と思いがちになるというのが実情ではないだろうか。
 いわば、こころの病のカタログのようなふうでもある。カタログの中にいろいろと並んでいるが、それを見ただけで見比べてどうだと言えるものかどうか、考えてみるとよい。それが言える人もいる。そのカタログの商品について、すでにかなりの知識があって、比較する能力のある人である。パソコンの広告をチラシで見て、これまでパソコンを使ったことがない人が見て、GBやTBとか、OfficeだとかCPUだとかを見て、どれを買うとよいのか判断がつくだろうか。無理である。
 私は素人ではあるにしても、様々な関心から、この類の内容についてはいくらかの知識がある。その私が見て、知っていることがてきぱきと整理されてまとられている、というようにこの本を見る場合があるのはありだと思うが、「困った人」に困っている人が初めてパーソナリティ障害の区別を突きつけられても、十分使いこなせるとは言い難い。その意味で、果たして本書が役立つのはどういう場合であるのだろうか、と不思議に思った。
 しかし、何か診断を下そうとするのではなく、とにかく困っているため、どう対処したらよいだろうかという点では、たいへん有難い内容であるとも言える。頁数は多くはないが、現実にこういうふうに迫られたら、こう返すように考えてみてはどうだろう、というケース対応がアドバイスされている。これは役立つのではないか。
 すると、気づくことがある。この対応というのは、相手を非難するようなことではない。相手をなんとか治してやろうとする態度でもない。ある意味で逃げであるのかもしれないが、その場を治めること、後を引きずらないこと、そうした対応の知恵が紹介されているわけなのだが、それらはひとつの「赦し」であるのではないか。クリスチャンが「赦し」というとき、もちろんイエスの教えが関わるだろうし、十字架を思い浮かべて考えるときもあるだろう。しかし、確かに「困った人」に対してそれをかわす動きは、この「赦し」とオーバーラップする場合があるような気がするのだ。憎らしく思うような心理的な部分が消えるのかどうかは、この対処法だけでは明らかでないが、もし憎しみや嫌悪感なしに対処していくことができるとすれば、赦すことのひとつの可能性に言及しているのではないかと思えてきた。
 同時にまた、自分自身がその「困った人」になっていないかどうか、自省する必要もあるのだろうということを、切実に感じることにもなったことを付け加えておく。




Takapan
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