本

『公教育の未来』

ホンとの本

『公教育の未来』
藤原和博
ベネッセ
\1470
2005.5

 地域における教育の価値を見直そう、というかけ声はよく上がる。だが、現に地域という存在が亡霊でしかないとするならば、このかけ声は前提一つ確立しない空疎なものとなってしまう。
 教育は一つの政策のようなものである。理屈を並べても、実際に行う人がいなければ何の意味もない。
 著者はどうか。リクルート社を経て、ビジネスマン出身として教育委員を務め、ついには2003年4月から、都内の中学校の校長に抜擢された。民間人の校長として、世に教育を問う著作を何冊も著している。
 現実的には、教育の場としての学校を舞台として、地域の人々を招き入れ、学校の内部に地域をつくり出す試みが必要である、という。たんなる縦社会でもなく、横だけの関係でもなく、著者はこれを「ナナメの関係」を復興させたいという。地域が共同して子育てに責任を負うような姿である。
 ただの教師上がりではないために、素朴に考えれば何だろうという疑問を、素直に提示し、あるいは回答しようとしている点が新鮮である。たとえば、職員会議なるものに議決権がない、などという紹介は、考えてみればその通りなのであるが、外部の者は、職員会議が恰も国会のように機能しているかのように感じる。しかし、校長にすべての決定権があるだけだ、ということを明らかにするだけでも、ずいぶん地域の人間として学校を睨んでいく姿勢や心得が、分かりやすくなっていくのではないか。
 校長は、全責任を負うのである。
 この本の中で、学校運営はもとより、一般的に言える教育の問題も、簡潔に鋭く語られる。それでいて、やることは非常に具体的である。
 自分の中学校で実際に動いているケースを紹介している点は、他の学校でも参考になるだろう。教師たちは基本的に真面目だが、上に立つ者の態度ひとつで、学校は良くもなれば悪くもなる。現状を打破するためにどうすればいいか、そのヒントがこの本には沢山含まれている。
 私自身、分かるところや分からないところなどいろいろあったが、共感できる部分は数多く見られた。地域という姿でできるかどうかは私はよく分からないが、大人たちの生き方が問われているというふうに捉えるならば、賛同できるところが少なからずあった。
 それにしても、先生方は読書が少ないというのは、事情か分からないわけではないにしても、あまりにも淋しいことだと感じた。




Takapan
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