本

『国語辞書事件簿』

ホンとの本

『国語辞書事件簿』
石山茂利夫
草思社
\1890
2004.11

 国語辞典が、家には沢山ある。ただし、しっかりしたものは、『広辞苑』と『新明解』くらいかもしれない。ベネッセの新しいものは、学習用として優れているが、さてほんとうに困難な調査に耐えられるかというと、そうでもない。本格的な辞書を揃えているわけではないのだ。
 ただ、仕事柄、どうかすると分厚い辞書を開くことがないわけではない。そのとき、さしあたり特別な疑いもなく、国語辞典というものは、信頼してひくことが前提となる。この辞書は間違っているのではないか、という思いでひくわけではない。
 辞書には親しみがあるせいか、その編集が如何に大変であろうかということも、ふだんからしばしば想像する。もしかすると、他の辞書の意味を丸写しということもあるのではないか、とは、人間として最近感じるようになった。そうでもしなければ、すべての語を一から十まで釈義するということなど、不可能ではないかと思うのだ。
 辞書には、その代表者の名前が記される。『広辞苑』なら、新村出編と掲げてある。素人は、この人がえらく苦労したのだろうと思うし、辞書の名をその人の名と共に記憶し、呼ぶ。
 もちろん、新村出が全部の語の意味を書いた、などとは思わない。だが、それに匹敵するような役割を演じたのだろうという前提で、この「編」という文字を見る。
 この『国語辞書事件簿』は、それが現実と如何にかけ離れているかを明らかにする。一人の新聞記者が、一線を退いた後、本来の関心事であるこの国語辞典という分野について、これまでつきとめてきたことを、ここで一気に爆発させた。
 そこには、憶測にとどまるものも含まれるのであるが、それにしても、人間の心理やドラマを実にうまく描いている。果たして論文としてこの本が通用するかは別として、私たちは、こよなく面白く読み進むことができる。いくらかでも、国語辞典というものに関心をもつ人であるならば。




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