本

『心やさしく生き生き育てる』

ホンとの本

『心やさしく生き生き育てる』
エドヴィジュ・アンティエ
中谷和男訳
毎日新聞社
\1365
2004.7

 サブタイトルが、「育児は自分さがしの旅――フランス式子育ての智恵」とある。フランスの有名な自動精神科医の著作で、ずいぶん活躍している人だという。あまり日本語訳にはなっていないが、もったいない話だと思う。
 というのは、子どもに対する温かい眼差しと、子どもの心を汲み取った、愛情に満ちたアドバイスが、宝石のように光っていると感じたからである。
 この本のテーマは、子どもの中に生まれる「攻撃性」を、どのような優しさに変えていくことができるか、という親の願いを叶えることだとみてよいだろう。子どもはどんな育てられ方の中で、「攻撃性」を覚えていくか。それは必要な面もある。だが、それを自分でコントロールできなくなっていくとき、成長してからの悲劇を生むことがある。
 まるで、昨今の日本での少年犯罪のために発行されたような趣がある。だが、これは二年前のフランスでの著書なのだ。フランスでも、同様の問題が意識されているということなのかもしれない。
 本書は、ひたすら文章で綴られている。見出しに添えられる図柄を除いては、イラストの一つもない。統計表もなければ、グラフもない。
 フランスでは、学生が哲学を学ぶことが必修であると以前聞いた。今でもおそらく変わっていないと思う。表面上のノウハウでなく、体験に基づきつつも何かの原理に則って思考し、行動に移すという精神基盤が育成されている土壌では、こうした文章だけの表現で十分なのだろう。ただ、はたして日本の若い母親がこれを好んで読むかどうかは、定かではない。
 なお、父親のための項目が、各章に必ずついてくる。これがまた、自然でいい。その通りにすべきかどうかは別として、育児が母親だけのものではないことを、明確にする上で、この視点はどうかどの類書でも貫いて戴きたいと願う。




Takapan
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