本

『こころの医学がよくわかる本』

ホンとの本

『こころの医学がよくわかる本』
井ノ瀬珠実
総監修妹尾栄一
小学館
\1575
2003.3

 めくって最初の頁「はじめに」の冒頭に、私は喜んだ。そこには「こころの闇」という言葉が軽く扱われている現象が取り上げられていた。それが「お決まりのパターン」であり、「自分とはまったく異質の離れた存在と考え、安心してしまっている」ことである、と訴えていた。
 それは、私の感覚と同じであった。
 何かしら、痛みの分かる人によって記された本だということで、信頼性も増した。
 Q&A形式で、それぞれの症状や状態について、よくある質問に答えるようなドラマ仕立てがしてあり、読みやすい。案外、私たちが知りたい情報は、そうした形で知ることができるものであると改めて感じた。
 さらにこの本は、実際の治療に役立てる、つなげる、という意味で、精神科の紹介を色濃く行う目的でも作られている。精神科医が細かな点でも監修し、本やインターネットのガイドもそれぞれなされている。
 問題の解決を紹介する本ではない。だから、困っている事態にどういう解決の道があるか、治療の入口を提供するようなものである。だが、自分がどういう状況であるのか、さらに言えば、自分の異常な部分を認識するということそのものが、できてさえいれば、解決の足がかりとなりうる。私たちは、そのような自己認識ができるであろうか。
 この本を肯定的に紹介する理由は、「あとがき」にもある。文を作成した人自身が、精神科の患者であるという。その苦しい体験があるからこそ、あの「まえがき」もあったのだろうし、人を助ける手立てを模索してくれていたのだとよく分かった。そのうえ、編集を担当した小学館の担当者がまた、依存症から助かっていった経験をもつという。こちらの「編集後記」が、本の制作を信頼あるものにしていると思えた。
 自らの異常性を意識しない人にはそのあたりのことを説明しても理解できないだろうと思うが、どうであれ、どなたにも読んで考えて戴きたい頁がある。173頁の、「"いじめ"に関してよくされる誤った言い方」というコラムである。「いじめられる側にも問題がある」「ふざけていただけだ。子どものけんかだ。親が出るな」「チクるな! チクるからいじめられるんだ」「いじめている子にも、人権やプライバシーがある」
 私も常々引っかかりを持ち、なんとか反対ののろしを上げようと思いを蓄積していた事柄ばかりである。それが、こんなにもあっさりと健全かつ明解な解答を以て示されたということが、喜びでもあり、淋しくもある。いや、私のことなどどうでもいい。これらの誤った言い方をしないこと、する者がいればそれをやめさせること、この本の読者は、そうした僕となって、新しい一歩を始めてくれるものと信じている。




Takapan
ホンとの本にもどります たかぱんワイドのトップページにもどります