本

『図説・国旗の世界史』

ホンとの本

『図説・国旗の世界史』
辻原康夫
河出書房新社
\1,800
2003.12

 サッカーのワールドカップが開催された年、小学生の夏休み自由研究には、サッカーを取り上げたものが多かった。また、世界の国々へ関心が向いたのか、世界の国々について調べるというのも目立った。我が子もその一人。実は、友だちと共同研究しようと言いながらも、留守番が多い我が家のせいで、共同を諦め、それでも単独で調べてみると言ったのだ。彼は国旗を調べた。世界の国旗について、描き写すばかりでなく、その色の使われ方について統計を自らとったのだ。すると、国旗の中にどんな色が使われているかが分かってきたという。彼はいまなお、国旗を見たら、だいたいどこの国のものか記憶している。『トリビアの泉』というテレビ番組で、国旗の「へぇ〜」が紹介されたが、彼にとっては周知の事実でしかなかった。国旗ではないが、私も小学生のころ、年間を使って世界の国についてまとめあげたことがある。同じようなことをしているのだな、と内心微笑んだことを昨日のことのように覚えている。
 ところがそうした国旗の色の使われ方などについては、そうそう一般的な資料として明らかになってはいなかった。今回、この本に出会って、やっぱりこういう研究もひとかどのものであるのだ、ということを改めて感じた。
 筆者は、「色彩」による分類をはじめ、「形」による分類、そして「象徴」による分類という三つの大きな区分けを施している。
 色にこめられた思いというのは様々だが、地域的に、あるいは宗教的になど、特定の色が使われている例は少なくない。形にしても、二分割、三分割などの基準で集めてみたり、十字旗や日本のような円形を集めてみたりする。アジアに多い円形旗は、輪廻や曼陀羅といった思想的な背景を有するという説明にも、なるほどと思えることしきり。太陽や動物、地図を描いた旗もある。
 本の題には「国旗」と記されているが、国旗だけに限定すると、人間と旗との関係について見失うことがある。もちろん、星条旗のように、歴史的な変化を伴うものはすべて順序立てて説明しているが、それとは別に、アメリカなどの「州」の旗、特定の島の旗、自治領や諸島の旗までが、その分類に当てはまるならば取り上げられているのが面白い。
 だから、「あとがき」で触れるのだ。「ショー・ザ・フラッグ」という政治的な言葉への怒りがそこには感じられた。「旗は政治や思想などプロパガンダの方便として、過去にしばしば権力者や為政者の企てに利用されてきた。必要以上に権威を持たせたり、崇敬の対象として服従を強いるのは、旗にとってはじつに迷惑で不幸なことである」と叫んだことに続いて、「旗の本質は、国や民衆のシンボルそのものであって、それ以上でもそれ以下でもない」とまとめている。
 筆者は、たしかに旗を愛している。妙な法則や意図を盛り込んで人を操ろうとするその企てに抵抗するかのように、旗そのものの面白さを楽しんでいる。そして「世界各地の少数民族でも自らの存在を誇示するために掲揚する、そうした現実に対する新鮮な驚き」を大切にする。そこには、まるで神が一人一人の人間をそれぞれの姿のままで愛している、というようなメッセージが重なっているかのように、私には聞こえてならない。




Takapan
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