本

『子犬に語る社会学』

ホンとの本

『子犬に語る社会学』
野村一夫
洋泉社
\1680
2005.1

 膝の上の子犬に向かって、「なお、おまえ……」と語りかけるスタイルをとった、社会学者の呟き。独り言でもあるが、たしかに犬に向かって語りかけているので、誰かがそれを聞くということも可能だ。そこに、すでに「社会」が成立している。
 社会学というのは、よく分からない分野ではあったが、この本を読んで、社会学っていいなあ、と思うようになった。哲学の中で、極めて内省的に進み、あるいは形而上学的に思考するというものもあるが、それを除けば、誰か人と人との間の問題につながってくる。つまりそこに社会が成立する限り、社会学の領分となりうるのだ。
 単にイデオロギーが云々というのではなく、人が人と出会ったときにどう考えるか、それをもとにどう行動しようとするか、そこを分析しよう、などとするから、著者が熱くなるときに話が向かうような、人生論にもなる。
 とくに私として惹かれたのは、宗教についての社会学的見解だ。それは信仰的に語られるものでは全くないゆえに、宗教的立場からすれば、そうだろうか、という意見も当然出てくるだろうとは思う。しかし、私はやけに清々しいものを感じた。
 101頁からの内容である。著者は、宗教の原点に「祈り」を挙げている。そこには、偏見も偏向もなく、実に的確に祈りについて記されているように見えた。
 宗教は、時に暴力ともなる。だがそれは、宗教のせいではない。さらに言えば、現代では、宗教の役割を果たしているのが国家であり、国家によって、暴力も行われているとまで告げられる。113頁までの内容には、私にとっては、重厚な響きがあった。
 この本には、社会学者の本音がどんどん溢れている。精密な理論を構築するための本ではない。反論を待ち構えた闘う姿勢ではない。ほっとした心で、実はこうなんだよな……と呟いている。そして、読んでいくうちに、こちらも触発されて、いろいろなアイディアが形となって現れてきそうな、そんな本であるように思えた。




Takapan
ホンとの本にもどります たかぱんワイドのトップページにもどります