本

『声の文化と子どもの本』

ホンとの本

『声の文化と子どもの本』
松井直
日本キリスト教団出版局
\1900+
2007.10.

 松井直(ただし)氏は、福音館書店の編集者として、「こどものとも」などを手がけた人で、後に社長にもなっている。絵本についての見解は様々な方面で取り上げられ、児童文学研究において金字塔となっている。
 本書では、「声」というテーマで、おもに絵本の読み聞かせの大切さについて、様々な角度から訴えている。声が、ことばを覚え理解するために、また情緒面すべてのためにいかに大きなものであるかということを教えてくれている。
 絵本の読み聞かせを父親が子にすることの重要性が随所で語られている。読んでいる時私は、どこかで見られていたのかと錯覚した。というのは、私は三人の男の子それぞれに、絵本を読み聞かせし続けてきたからである。
 環境にも恵まれていた。図書館が利用しやすかったこと。絵本をたくさんくださった方がいたこと。そもそも、長男を預けた保育所で、絵本がプレゼントされたこと。そしてもちろん、私が絵本が好きで、しかも読み聞かせについては素人ながら、後から知ったことには、なかなか悪くないやり方や考え方を以てそれに勤しんでいたこと。とにかく私はよくわが子に読み聞かせを飽きるほどしていた。そして体験的に、子どもに話す方法や意味を感得していたのである。
 小学校で月に一度、選んだ絵本を朝のひとときに教室に行って読み聞かせをするというボランティアに加わったときがあった。その研修の時、男は一人だったので、ベテランの人が、読み聞かせの悪い例に使おうと、私に試しに読んでみよと振ってきた。だが初見の絵本を渡されても私が読んだその様子に、皆が惹きこまれた、ということもあったのである。
 松井直氏はキリスト者として、聖書について常に問題意識を抱えている。声の文化と子どもを育む思いは、いつも聖書をどう伝えるかを考えていることが、本書からもよく分かる。時折、教会で聖書をどう読むかということについての意見が書かれている。その意味でも、これは教会関係者にぜひ読んで戴きたいと考えている。
 そのとき、若い世代に変化が起こっていることも指摘する。とくに子どもたちの間に様々な問題や、殺人などの事件が起こることに心を痛め、そこに声の大切さを切実に訴える。そのためにまた、聖書の福音が伝えられなければならないという情熱も、随所に現れている。
 ところで、声でなければならない、と言うと、ろう者はどうなるのであろう。私の中でその疑問があり、この本の題に関心を持ちながらも、しばらく手を出せないでいた理由はその疑問であった。しかしこの度取り寄せて読んでみたのは、松井直氏が別の論考で、手話は確かに視覚的だが声の文化に匹敵するもので同じものだと捉えている、と書いているのを見たからである。本書には手話のことは触れられていないが、ことばというものを深く考えている人だからこそ、こうした視点がもてるのだろうと快く思ったのである。
 繰り返すが、本書の視座には、教会のこれからへの洞察と助言がふんだんにこめられている。子どもたちの教会学校を含め、聖書朗読や福音宣教のために、すばらしい考えがちりばめられているように感じられてならない。
 私はファンタジーを読むのが少し苦手であるが、ナルニア国物語や指輪物語、それにエンデやゴルデルなど、名作にはそれなりに目を通している。この機会に、本書で勧められていた児童文学論の本を、早速また取り寄せて読むことにした。




Takapan
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