本

『声と言葉の教科書』

ホンとの本

『声と言葉の教科書』
福澤朗
東京書籍
\1260
2009.7

 フリーアナウンサーとして有名な著者による、「一つの社会還元」であり「使命」としての本である。「はじめに」に、そのように書いてある。サブタイトルは「勝てる日本語 勝てる話し方」というから、教科書から受験参考書にまでなったかのようでもある。この表現は、案外よいところを的確に突いていると受け取ることができるだろう。
 アナウンサーとして学んだことを、次の人に伝えていく。単なるハウツーではなく、一つ一つが理由を伴って説明される。これがいい。とにかくこれをやってみよう、というのでなく、どうしてそれをするとよいのか、何を目的としてそうするのか、そうしたことを理解させる試みである。時に、それはややこしい印象を与えてしまうかもしれないが、適切な方法であると私は感じる。
 最初から、K世代とY世代という言い方で読者の関心を誘う。もちろん著者独自のネーミングである。ケータイの世代と、有線の世代という区別なのだそうだ。著者自身、まだ若い部類に入れてもよいくらいの人なのだが、考え方はかなり伝統的で、新しい世代のコミュニケーションの行く末を懸念しているように見える。若い人たちを読者に想定しながらも、それに迎合するのでなく、何が大切か、ちょっとオヤジ風を吹かせて語るようなところがある。
 話がうまい人であるから、話の進め方もうまい。ひきこまれるような魅力があるし、たしかにそこにいて話しているかのような印象すら与える。自分に向かって話していると錯覚しそうな、豊かな感性がそこに表れている。そう、この本自らが教えているとおりに、いわば心をこめて伝えようとしているために、読者の側でもその心を受け止めやすくなっているのだろう。まさに、ここで語られている方法は、著者自身が実践している方法であると納得することができるのである。
 さらにこれを「勝てる」という表現を交えて、理屈だけではなく実践できる方法なのだという印象を与えることにも成功している。そうそう衒ったような言い方はせず、常識とうまく咬み合いつつ論が展開していく。言葉や発声といった点はもちろんのこと、自分のポジションを意識せよという、大前提を強調する。それこそ、口先だけのものは失敗する、と言いたいかのようだ。
 愉しんで読める。これをすべて本当に実行したら、なかなかの技ではないだろうか。「教科書」と銘打った割には、あまり系統立てて構成されているとは言えず、比較的思いつきのものを揃えたというふうにも見える。そして、思うに、これはやはり「教科書」なのである。適切な使い方が十分に施されているかどうかは疑問があるが、何より何度も見てポイントを早く覚えたいと思う人が、次々と現れそうな勢いである。
 この本を「教科書」とした理由は、もう一つあった。此方の方が本音であるような気がする。それは、この本の出版社が、東京書籍だということである。学校教科書を作っている会社ではないか。
 どうか、言葉のキャッチボールが豊かに実現する世代が現れますように。




Takapan
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