本

『子ども図書館をつくる』

ホンとの本

『子ども図書館をつくる』
杉岡和弘
勁草書房
\2520
2005.8

 地味な本である。「図書館の現場」というシリーズの4巻目であるらしい。くり返すが、たいそう地味な本である。おまけに、暑さの割に値段が高い。誰も好んで買おうと思うタイプの本ではない。
 だが、この本に出会ったことを、感謝したい。こんなに図書館のことが分かる本は、初めてだった。
 ここでは、子どものための図書館の創意工夫といったものが中心である。だが、それで十分だ。図書館というものが、どんな目標をもち、どんなに心を配って、本と、その本に出会う人とを、温かい眼差しで見つめているかということが、ひしひしと伝わってきた。
 図書館の中に子どもの部屋を創る、ということのための小さな連載を集めて編まれた本であるらしいが、たしかに、この若い図書館長の息吹というものが、どこからも伝わってくるような書き方である。ああでもない、こうでもない、と悩みながら、どうしたら子どもたちが図書館を自分の居場所の一つとして認め楽しく過ごしてくれるだろうか、と考える。そこには、明確なマニュアルがあるわけではない。だが、考える基準も必要である。問題は、そこにハートがあるかどうかである。
 この本からは、その熱いハートが感じられる。一つ一つの言葉が、誠実な、子どもたちへの愛情に包まれてこぼれてくる。
 私が少しばかり絵本というものに興味をもったから、そしてまた、本好きな子どもたちに恵まれたからでもあるだろうが、子どもの視点でしばしば図書館というものを見つめている。その私が、図書館で働く人々からどのように見つめられているのか、をはっきり示してくれたような本なのである。
 こんなに優しい視線で見つめていてくださるのだったら、私たちは本当に迷惑もたくさんお掛けしていることになるし、手間もたくさんお掛けしていることになる。利用者である自分を、一瞬突き放して客観的に見つめることができただけでも、この本と出会って良かった。
 いや、それくらいで終わらせてはもったいない。子どもに絵本を読み聞かせる人々、子どもに素敵な本と出会ってほしいと願う人々、みんなが、この本の中に一度浸って戴きたい。保証するが、得るところが必ず大きいはずである。




Takapan
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