本

『あの偉人たちを育てた子供時代の習慣』

ホンとの本

『あの偉人たちを育てた子供時代の習慣』
木原武一
PHP研究所
\1,400
2003.5

 説明文の読解の秘策として、段落の最初だけを拾って読む、というのがある。その方法でこの本の「あとがき」を読むと、次のようになる。
 およそ習慣というものを持たない人はいない。……人間がなしとげる偉業も、習慣の産物にほかならない。……さまざまな具体的な事例とともに、子供時代につくられた「心の習慣」が、その後の人生に決定的な影響を与えることを示したいというのがこの本の趣旨である。……それでは、子供が「よい習慣」を身につけるにはどうすればよいか。それはひとえに親の態度にかかっている。……
 この本のエッセンスは、すべてこの要約にある。そう言ってしまえばそれだけのことである。しかしこの教養ある著者は、古今東西のエピソードを引いて、その子ども時代の話、親の育て方の話を飽きさせることなく述べ続ける。ここでは、キリスト教に贔屓に引用させてもらう。チャップリンが五歳という年齢で母親の芸を助ける形で突如舞台に上がったという話はよく知られているが、この母親の影響が決定的に大きいのだという。キリストの受難を演じる母親の姿に二人して涙したときのこと。チャップリンは、感動して今すぐにでも死んでイエスに会いたいと願った。しかし母親は、生きてこの世の運命を全うすることをイエスは望んでいると話した。その夜、チャップリンの心に確かな灯がともり、そのことがその後の映画人生の原動力になっていた。
 また、まだ記憶に新しいイギリスのサッチャー元首相の父親は、貧しさのため学校に行けないながら苦労の末市長にまでなった人だというが、彼女はその父親の姿を見て「鉄の女」の素地を作っていったという。彼女は、毎日曜日に教会で聴く牧師の説教から、人生の指針を得ている。「大勢を救うのは、いつも少数の人たちだ」との言葉に、政治家としての自分の使命を感じた。また、同様に教会で説かれた勤勉や敬虔さなどを柱に、家庭と並行するかのような「小さな政府」を押し進めたのだという。
 中には、親を反面教師として育った天才や、トラウマに悩まされた偉人も紹介され、最後まで楽しめて読める。子を持つ人は親の立場で読むのは当然のこと、誰でも、子ども時代の自分が今の自分にどう関わっているかを考えるのも楽しい。また、若い世代に対してどのように大人が生きていくべきなのか、省みる材料にもなるだろう。私は、最近の若い者は案外いいぞと思っている。むしろだめなのは、最近の大人である、と……。




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