本

『子どもの時のなかへ』

ホンとの本

『子どもの時のなかへ』
富盛菊枝
三好まあや版画
影書房
\1890
2004.9

 どういうジャンルに入れてお知らせすればよいのか、私はよく分からない。
 実話のようでフィクションのようでもあり、エッセイのようで記録のようでもあり、そして思い出話のようで反戦のメッセージのようでもある。それは、戦時の子どもとしての思い出が生き生きと描かれているからである。
 文学とは器が大きいものだ。
 少女時代の自分を振り返って語っているような形式である。しかもその一コマ一コマが数頁単位で断片的に描かれる。
 心に強く残ったところを紹介する。
 継母について理解したときの記憶の話で、「ママハハ」と刻んだ恨みの文字を、ごめんねと○印を足して「ママパパ」にしておいたこと。
 きれいな花だからと掘り起こして自分の意に叶うように植え替えても、もとある花をバラバラにしてしまえば、しおれてしまうのだという話。兄弟が力を合わせることなくバラバラになっていては、しおれてしまうのだと言いたかったに違いない。
 子どもの心には、折り紙でいろいろつけた折り目のようなものがついていて、こればかりはいくら作品が完成しても消えることなく残るのだという指摘。
 個人的には、たばこが配給制であるのは分かるにしても、それは吸わない人にまで強制的に配布されていたのだという指摘に驚いた。そんなにも、タバコは大切だったのである。配給しなければならなかったほどに。
 戦争中だからと、子どもたちの心までステレオタイプに押し込んでしまうことには、私は反対だ。この著者もそうだろう。時代の制約を受けながらも、子どもはつねに子ども力に満ちたエネルギーを保ちつつあるのであって、そう簡単にしおれはしまわない。かけがえのないひとときとしての生の証しを綴る一幕で、精一杯子どもとしての視点を残してくださった著者の努力に尊敬する。
 どこか一途な、脇目もふらぬような子どもの世界は、どんな暗い時代にも、どんなに明るいと自負する時代にも、癒しにもなり、支えや希望になりうるものである。




Takapan
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