本

『コドモノクニ名作選』

ホンとの本

『コドモノクニ名作選』
アシェット婦人画報社
\4725
2010.8.

 これは上巻・下巻二冊組である。
 1922年創刊の、こどものための本である。などというが、もちろん私がこれを直に知る訳がない。話に聞いていた、という程度である。ただ、昔そういう、いわば画期的なこどものための夢の世界が築かれていたということ、そしてそこに、私たちが今偉大な詩人と崇める人々が寄稿していたということなどを、耳にしていたのは確かである。
 その時代を思い起こさせるに十分な資料が、ここに現れた。これらは、東京を中心に、いくかつの図書館や文学館で見ることもできるという。下巻の最後に、その案内も載せられている。しかしそこまで行けない私たちにとっては、実にありがたい資料である。
 昔の紙質の通りには再現されないが、それを掲載して眺めることで、その時代を知ることができるのはありがたい。絵も、文字も、そのままの写真である。これをこの色で再現するというのは、簡単ではなかったことだろう。
 当時のこどもをとりまく風景が満載である。間違いなく大人たちが作っているのであるが、こどもの目の高さで、こどもの視野でこれだけのものを捉えるというのは、立派なことだ。商業主義でものを買わせようとすることが第一に働く昨今とは異なり、こどもの心に寄り添うように作られている、と言えば言い過ぎであろうか。
 岡本帰一の絵が多々あるし、藤田嗣治や本田庄太郎、竹久夢二などの名も見られる。金子みすゞのように早世した詩人も名を連ねているし、北原白秋だの西條八十だの島崎藤村、草野心平までいて、野口雨情となるともうコドモノクニそのものであるような気もする。こうした中で、まど・みちおさんがこの発刊時存命だというのは、本当に驚くべきことであるかもしれない。
 テレビ放送が始まり、経済大国になり、デジタル革命の中で自然とふれあわなくなったと言われる最近の子どもが、こうした昔のものをどう思うだろうか。案外、それはとてもいいと感じるかもしれない。変わらないものがたくさんあることを、もしかすると子ども自身が一番知っているかもしれない。
 1944年に幕を閉じるまで、軍国主義の中でも、戦闘的な描写をすることなく、役割を全うしたといわれる。この精神を、その子どもたちが、受け継いでくれるだろうか。私たち大人が、破壊してしまっていないだろうか。またしても、ここで大人自身が問われているような気がしてきた。私たちは、このような「コドモノクニ」を提供できるのか。提供しようと、しているのだろうか、と。




Takapan
ホンとの本にもどります たかぱんワイドのトップページにもどります