本

『子どもの本・ことばといのち』

ホンとの本

『子どもの本・ことばといのち』
松居直
日本基督教団出版局
\1700+
2000.7.

 福音館書店をリードしてきた松居直さんは、キリスト者でもあり、しかしまたそこに限らず子どものための絵本、子どもの教育について、広く深い考えを提供し続けてきた。多くの著作があり、どの本がどう関係しているのかよく分からないが、今回は、推薦する本が居並ぶという構成になっている。えてして、こうした推薦本シリーズは、著者の思い入れがあるのは分かるが、読者にとっては好みが様々で、ピンとくるものからこないものまで、まるでカタログを見ているような退屈さを伴う場合が多いものである。
 だが、この本は違った。私の好みが合うということなのか、あるいはもったいないことだが私と子ども観が似ているということなのか、判断はつかないが、ここに挙げられる本は、どれも私にとりわくわくが止まらないものばかりと言ってよいのである。
 実際読んだことがあるものもある。別に松居さんが良いと言っていたので読んだというものもある。しかしまた、実際読んだことがないのであるが、ここに紹介されている様子を見ると、もう読みたくて読みたくてたまらなくなるというケースが度々なのだ。図書館にあるかどうか調べると、とりあえず読みたいと強く思った三冊があったので、次々と借りて読んだ。あらすじや読みどころは本書で知っていたけれども、それでその本のすべてを知ったような気になることはできないと思った。本書の説明は、もうネタバレもいいほどに詳しく網羅してしまっているのだが、それでもなお、実際にその本を読んでみると、新しい発見や感動が次々と現れてくるのである。
 それは、原作が如何に深いかを証拠立てるものであったとも言えよう。いくらこの紹介のプロが紹介したところで、すべてを伝えるわけにはゆかないのだ。オリジナルのもつ輝きは、オリジナルを知ることでなければ十分には味わえない。それでいいはずだ。  但し、本書の紹介はほんとうに広い。それは、キリスト者として読むときになおさら肯けることが多いというのも事実である。本書は日本基督教団出版局から出ているが、それというのも、同社の雑誌『信徒の友』に連載されていたものをまとめたものだからである。時に前置きが長いときもあるが、それだけ読み物として優れているとも言える。その本の世界の前提となる背景の説明のためにかなり時間を費やす場合もあるのである。
 『ハイジ』や『バンビ』では、アニメが如何に原作と違うかを力説する。特にハイジりのほうは、もう完全に別作品である。それは、私も全く同感だ。聖書のエピソードこそあの作品の命なのに、日本のアニメにはそのような要素は邪魔で仕方がないとでも言うように、無視してあると、もう関係のない作品であるのは言うまでもないことだ。
 全体的に、やはりこれはクリスチャン向けの原稿である。一般に児童文学だけに注目したい方にとっては、うるさい内容が多いと思われるかもしれない。だが、キリスト教を宣伝しようという意図ありありの書き方ではないと思うし、キリスト教を知っている「信徒」が読んで理解しやすいように配慮してある、と捉えてはどうだろうか。それより、そもそも選ばれた絵本や文学書そのものが、如何にキリスト教文化を背景にしているか、というところを見て戴きたい。西欧の作品からそれを奪い去ることはできないのだ。
 中には、アーミッシュやシェーカー教徒など、あまり馴染みのない派を中心とした物語もある。実はその後者について、私はすぐさま読んでいたく感動した。キリスト教の派のことが問題なのではなかった。少年がいかに成長していくか、その背後に神が見守っていることについては、感じる人は感じるし、感じない人は感じないであろう。だが、感じたほうが、本を味わうにあたり、きっと楽しくなるに違いないのだ。文化を知ることで、作品はより深く輝いて捉えられることになる。本書は、そうした経験の良きガイドとなること請け合いである。
 そして最後に、私のいつもの主張と同じことがちゃんと最後に書かれてあったことも申し添えておく。つまり、子どものための本は大人が読んで然るべきだ、ということ。児童文学を大人が愛読することは、必要なことで、また実りの多いことであることについては、私も著者に負けずに思っていることなのである。




Takapan
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