本

『はじめての子ども手話』

ホンとの本

『はじめての子ども手話』
谷千春監修
主婦の友社
\1200+
2018.12.

 子どものための手話入門です。けれども、これはぜひおとなの方にも見て戴きたい。手話を学びたいと思った大人の方、この本がいい。
 写真が細かく載せられているが、モデルは子どもである。そのことが嫌であるのなら仕方がないが、大人はこの本からきっとよい手話の世界への道を歩むことができるだろう。
 まず、手話とは何か、実に的確な説明から入っている。気取ったところなく、大人ならなおさら理解しやすいであろう書き方がされている。手話の歴史についても、実にコンパクトに、要点がしっかりと伝えられている。そもそも子どもに説明することは、大切な点が中心であるはずだ。そして、分かりやすく説明されているはずだ。詳しく知っている大人であっても、こうした説明に目が開かれことさえあるのだ。
 しかし、である。いざ写真による紹介が始まったら、実際しんどいと思う。最初の見開きで指文字五十音が全部紹介されている。これを身につけるのに、いったい何日かかるだろうか。なんとなく読み飛ばして先へ進みたいのが大人の悪い癖だが、よかったらここでしばらく立ち止まって戴きたい。もちろん、写真があるだけではない。その表し方のポイントが文字で添えられている。これが短いけれども実に丁寧なのだ。
 次の見開きも数字であり、これがさっさとできたら楽しいだろう。これらには、その後幾度でも戻ってきてほしい。そして必ず全部マスターしてもらいたい。ここには子どもも大人も関係がない。だからこそ、私は大人にもこの本を推薦するのだ。
 はじめはあいさつについてしばらく時間をとる。ここはす可愛いキャラクターによるイラストの指導となるが、指の部分はよく描かれているし、その動きについて一つひとつ文で注意が添えてある。これが実にいい。また、その手話が伝える意味のニュアンスも、他の手話とどう違うかが朱書きされている。これがまたよいのである。
 章が終わるごとに、コラムがあって、たとえば最初の章の終わりには、聞こえないことが現実にどんな不便をもたらすのか、聴者では気が付かないようなことが教えられる。もちろん、どれも的確で簡潔である。
 確かに、この後の例文は、学校という場所や、子どもの語彙に基づくことになる。大人としては、科目や給食の話題がどれほど必要なか、分かりづらいかもしれない。動物や虫の名前を覚えなければならないのか、と思うかもしれない。だが、ろう者との話においては、実は生活にまつわる生き物の名前、食べ物のことなど、身近な具体的な生活の場面に登場するものとして、実によく使う手話なのだ。これは案外盲点かもしれない。どうしてもそうした具体的なものに関心が薄くなるのが大人なのだが、手話ではよく使う。食べ物ひとつ伝えられずして、なんの会話が成り立つのだろうか。それを思うと、この子どもたちの生活場面を意識した編集は、大変優れた語彙集であると言えるような気がするのである。
 手話を学んだ子どもたちの体験談も時折載っている。著者や編集者の思い込みでなく、現場での経験は宝物である。案外こうした声が載せられている入門書というものがない。ろうの子どもたちの夢が記されているところもある。当該者の声である。なんと行き届いた本なのだろう。
 有名な歌の手話や、手話を楽しみ覚えることにも役立つゲームも紹介されている。これはもうお得というほかない。そして最後には、補聴器や人工内耳についての解説があり、聴導犬のことも教えてくれる。
 もちろん、と言ったほうがよいと思うが、索引もある。至れり尽くせりの手話についての本であるが、まだすごいことがある。QRコードから、これらの写真の手話を動画で見ることができるようにも配慮があるのだ。確かに手話は動きを伴う。写真に矢印をつけるなどして、説明はすることができる。しかし、実際に動きを見ると、思惑と違うということも確かにある。動画へリンクするというのは、もうありがたいことこの上ないのだ。
 よくぞこんなよい本を作ってくださった。私も教えられるものがあった。また、時代的ものなのか、たとえば「新聞」はこれまで聞いて知っていたものとは違うものが載せられていた。手話も時代とともに動く。老人語とされる手話もある。新しい手話というのは、新しい用語のことだけとは限らない。変化する手話にも目を向けていくことが大切だと教えられる。図書館で借りた本だが、これは買うべきだろうかと悩んでいる。




Takapan
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