本

『世界中の子どもの権利を守る30の方法』

ホンとの本

『世界中の子どもの権利を守る30の方法』
国際子ども権利センター編
甲斐田万智子
荒巻重人監修
合同出版
\1800+
2019.10.

 だれひとり置き去りにしない! 表紙の子どもたちのイラストが声を合わせて呼びかける。「子どもの権利条約」に基づき、SDGsという、持続可能な開発目標に沿って提言する。これは2015年に国連で、2030年までに達成するために採択された国際目標であるという。そこにあるのは、貧困をなくすことや、飢餓をなくすこと、性の健康を守ることや保健衛生に関することなどである。ほかに、教育を受けること、差別、特に女性に対する差別をなくすこと、奴隷制や人身売買を終わらせ、児童労働をなくすこと、政治的に差別をなくすために働きができるよう促進すること、障害をもつ子どものために公共のものが役立てられること、そして暴力が廃せられ司法へのアクセスができるようにすることなどがそこには並んでいる。
 分かれた章では、必要に応じた写真やイラスト、時に図解などが施されており、親切だ。諸外国で実際に行われている差別事件を取り上げ、具体的なところから考えさせてくれる。こうしたことは、生々しいには違いないが、具体的な事態を知ることが一番だ。世界中からそうした困難に遭った子どもの実例が紹介されるのだが、仮名にし、その子に害が及ばないように設定を少し変えるなどの配慮もしているという。
 日本は女性のジェンダーギャップの大きさは世界ランク121位なのだというニュースが流れていたが、思ったほどには大きく取り上げられて折らず、私の見た目では冷笑されているようなものだった。そうなると、子どもだけの問題ではもはやなくなってくる。日本の女性は、子どものような地位にされているのだ。その子どもの間でさえ、差別のないようにしよう、というこの宣言は、どうやら日本に厳しく突きつけるものとなっているように思えてならないが、相変わらず男性社会である日本では、本書のような提言は黙殺されるだけである。そこが悲しい。
 いったい本当に、子どもたちはこんな目に遭わされているのか。にわかには信じがたいが、あまりにも不条理すぎる暴力は止められているものの、結局なかよし倶楽部的な国家内部においては、様々なことが起こっているのだろう。まして、全世界を視野におくと、やはり私たちに考えられないようなことが普通に起こっているということになるのだろう。
 先般、16歳のグレタ・トゥーンベリさんへ、日本で名のある人が中傷に近い揶揄を飛ばして非難を浴びていた。その弁明が、まずツイートの少ない字数で揶揄したら誤解される、というふうなところから始まり、自分は彼女を子どもだと思っていないとか、陰で操る大人がいるはずだ、などと言っていた。せっかく環境によいことを提言して実行している人であるだけに、残念な発言だった。この人は外国で児童婚を行っていることを自ら発表しており、端から子どもの権利条約に反することを実行していたのだった。また、グレタさんについては、大人が操っているのではないことはそれなりに表明されているのだから、憶測で言い放つことは、名誉毀損の疑いもある。尤も、アメリカやブラジルの大統領が感情を露わに彼女に罵声を浴びせても、涼しい顔で静かに切り返す彼女の対応を見ると、全くどちらが大人だか分からない。なかなか凄い子どもが現れたものだ。その輪は、全世界の子どもたちを動かしている。大人が仕掛けたものであるならば、世界中の子どもたちが容易に騙されはしないだろう。返す返すも残念だ。
 本書には、様々な実例が挙げられている。先に言ったようにプライバシーは守られていると思うが、信じられないような大問題から、ごく日常的な次元で困ったなというようなことも実は差別に基づいているなどの指摘をするまで、子どもたちが読んでも、等身大で理解できる部分が多い。もちろん、大人が読んでもそうだ。日本だけの特殊な例でもなく、また日本には当てはまらないような外国の特殊な例でもなく、すべての子どもが横につながって輪をつくるかのようにして、この本の周りに確かに集まっているように思えてきた。それが、きっと表紙から広がるイメージだったのだろうと思う。今後、このような本が増えてくると思う。が、さしあたり本書で十分だ。そして、これもまた、大人が読むべきだ。




Takapan
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