本

『大地の免疫力 キトサン』

ホンとの本

『大地の免疫力 キトサン』
船瀬俊介
農文協
\1400
2003.10.

 キトサンの効能については、さほど大きなブームや声にはなっていないように見受けられる。かなり以前に、盛んに研究された時期があったようである。
 ただ、例によってこうした健康食品とされるものは、販売のために過剰でセンセーショナルな宣伝文句が飛び交い、過度の期待が寄せられた末、実はそれほどでもなかった、などと言われて厭きられるのが常である。食品店の棚から一斉にそれが消え、ふだんから利用していた人々が迷惑し、業者は過剰な生産に追い回されたあげく、やがてぱたっと売れなくなり――というよりもは元に戻り、過剰生産のために企業が逆に苦難に陥る、という歴史を、毎年繰り返すことになっている。
 キチンと呼ばれる成文があり、それは、エビ、カニ、昆虫、貝、キノコなどに含まれる天然の成分であり、生物を素材としてふんだんに存在する資源だと言える。これが酸性水溶液に溶けるように処理されたものが、キトサンと呼ばれる。実のところあまり利用されていないに等しい、しかし地球上に無間にるに等しいような素材であるが、これが実に人間にとり有用である、ということはほぼ確実に分かっている。
 この本は、そのことをあらゆる角度から宣伝してくれているものである。
 サプリメントもある。そもそも私はサプリメント食品を利用したことがこれまでなかった。ところがとある筋から、キトサンを呑んでみたらどうかという声があって、試しに呑んでみた。目に見えて効果がある、ということのないのがまたいいが、全体的に心地よい。比較的安心して使えるという話でもあるので、私が継続している、珍しいというか、ほぼ初めてのケースである。今は比較的安価に手に入るせいもあり、あまりきばらずに続けていけたらいい、とも考えている。
 そんなわけで、ふと手にして本書。いやぁ、その熱烈さには、読みつつも惹いてしまったところがある。こういう口調で語り続けることのできる著書というのは、一般に評判が悪い。もうあまりに利点ばかりが激しく大袈裟に叫び続けられていて、少しは問題点がないのか、とツッコミたくもなる。データや内容からしても、正確な部分も当然あるはずなのだが、過剰な表現や、実のところ虚偽にあたるところもどこかにあるのではないかと勘ぐりたくなる。それを一般の読者としては確証できないところが辛いのだが、確証できないからこそ、信用してみようか、という気持ちにもなるものだ。
 どだい、その辺りで宣伝されているものというのは、そういうものだ。自分に不利になることをわざわざ口にするはずがない。利点はとことん宣伝する。その効能を過大にでも叫ぶ。コマーシャリズムというのはそういうものだ。学問とは違う。誠実さは、不利益を生む。
 かといって、それが相手を惑わす、あるいは信用してのめりこんで他の副作用を与えてしまう、という点に、どれほど責任をもつべきか、そこは難しい判断もある。読者の自己責任で判断すべき事柄、という側面もあるだろう。線引きは簡単ではない。
 ともあれ、リテラシーというか、読者の側での情報に対する判断力というものは、これからの時代には特に重要になる。巷には情報が溢れている。どれを自分のために信用して用いるか、ついていくか、そこに知恵が必要となる。キトサンそのものが特に悪いものではない、ということはほぼ分かっているとはいえ、この著者が言うほどのめりこんで然るべきものであるのかどうか、それは定かではない。思わぬ副作用があるかもしれない。しかし、日本キチン・キトサン学会という、きちんとした(洒落ではない)組織もあり、地道な研究は続けられている。できれば、下手にブームになり、品薄になったり投機の対象になったりしないで、地道に、人知れず世の中の役に立つ、というようなものであり続けてほしい、というのが、ささやかなファンからの願いである。
 なお、著者は、2009年の第18回日本トンデモ本大賞に選出されている。




Takapan
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