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『平井信行の 気象・防災情報の見方と使い方』

ホンとの本

『平井信行の 気象・防災情報の見方と使い方』
平井信行
第一法規
\1800+
2019.9.

 おそらくNHKで見かけた方は多いだろうと思う。気象キャスターとして、最初の気象予報士試験の合格者として活躍してきた。NHKの職員ということではないようだが、NHKでの信頼のおける気象情報を長く担当している。
 その経験からまとめたと言ってもよいのであろう、本書は、気象情報や防災情報を出す側のことを語るよりも、受ける側がどのように受け止めていくとよいのかを丁寧に辿った構成になっている。情報を、どのように読むべきなのか。
 副題に「子どもの命を守る判断力を育てるために」と目立つように記されている。これもまた一つのリテラシーなのだ。東日本大震災でも、子どもたちが当たり前のように正しい対処ができた場合には、命が助かっている実例がある。ふだんの訓練も大切なのだが、何より正しい判断ができるということが一番であるとも言えよう。知は力なり。知っているからこそ行動できる、あるいは適切に行動できるということがある。それを育もうとする視点には大いに共感がもてる。
 方向性としては、とにかく気象に関して出されるニュースや報道、そして情報から、確かにどのようにすればよいのか、そこである。命を守る、その一点に集中して語られる。そこにこの本の意義がある。
 防災情報が新しくレベル化されている。これがようやく浸透してきた頃であろうか。その浸透のためには、多大な犠牲が必要だったというのは悲しいけれども、最近のいくつもの災害報道が、これを大切なこととして伝える役割を果たしたことになる。実際多くの人の命が失われたわけで、そのことで私たちは危険性を実感したことになる。ひととはなんと冷たい存在なのだろうと嘆きたいが、とにかく今からでも遅くはない。災害はいつどのように襲ってくるか分からない。本書では土砂災害や川の氾濫、台風などといった最近の大きな実例もたくさん挙げられており、実際現場で報道していた感じたことや、できたこと、できなかったことなどへの反省などが、そこに反映されているものと思われるが、雷の音がしている間はとにかく引っこんでおくべしという、気象学の基本が強調されているなど、ちゃんと読めば私たちが自分の命、預かっている子どもたちの命を守るための知識がいくらでも含まれている。惜しむらくは、それが何気なく文章の中に埋もれていることであって、その辺り、もっとハウツーもののように、色を変えたり太字で示したり枠を具えたりと、とにかくこれだけは記憶してくれという情報を目立つようにしてあったら、さらに役立つ本として災害に備えてそばに置いておけるだろうに、と感じた。えっと、どこかに書いてあったよな、ではいざというときに使えない可能性が高いのだ。もちろん地震についての対処法などもよく書かれていると思う。それをもっとビジュアルに示されていたら、という意見である。
 線状降水帯とは爆弾低気圧とか、私も最近まで知らなかったような用語がある。中には気象用語ではないものもあるとはいうが、報道のときに分かりやすく伝えられ、人口に膾炙していると言ってよいものがある。そしてそのもたらす災いについての危機は見落としてはならないものがある。実際の豪雨災害や震災などにおける実情をも語りながら、説得力をもった説明が展開される。読むだけでもずいぶん意識が変わってくることだろう。
 後半は少し専門的な説明もあるが、避難するにあって大切なことがたくさん語られている。垂直避難と水平避難という言葉も、聞き慣れないが、言われてみれば尤もな考えの枠だと言える。時には上の階へ、時には下の階へと逃げたほうがよいというケースがそれぞれある。垂直避難である。しかしどこか別の土地に逃げ出さないといけない水平避難が必要だというケースも多い。それぞれに知識が求められよう。
 そして何よりもまた、こうした知識や知恵を、子どもたちに伝えるということである。もちろん親もまた学ばなければなるまい。大人だからだいたい分かるというものでもないのだ。
 このように、大切なことが満載の本書であるが、このような気象の変動の原因をとやかく言おうとしているものではないことは確かだ。その議論をこの本に求めてはならない。地球温暖化などと言っても、かつて氷河期やその反対のときが地球上にはあり、大袈裟に考えないほうがよいような見解が述べられている。だがこの気候変動による気象の変化はやはり大きなものであろうと思うし、それに対する都市防災の思想を変えていく必要がきっとあるだろうと私は考える。著者もまた、この近代の変動は、人間が人工的になしたところがかつての自然現象による気候変動とは違うのだということは分かっているから、何も誤った認識をしているとは思わないのだが、もっと私たち一人ひとりがこの変動を助長しているという視点と、人が住まう地域における防災基準のようなものへというように、パブリックな面にまで考えを伸ばしていく視点を、次の著作で期待したいものだと思った。
 それと、要点を見やすくしたハンドブック的なものと。




Takapan
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