本

『世界最速「大学受験」超記憶法』

ホンとの本

『世界最速「大学受験」超記憶法』
津川博義
講談社+α新書
\880
2005.12

 大袈裟なタイトルや宣伝文句を掲げておきながら、さして常識と違わないことばかり述べる、という手法にしばしば出会うと、大抵のものは誇大広告かなと思えてしまう。
 さて、この「記憶法」なるものも、あまりにすべてを打ち明けてしまうと、本業の法で差し支える可能性もあるのかどうか分からないが、とことん明らかにはしてくれていない印象がある。原則めいたものは挙げるものの、それを読者が使いこなせるかどうかは、デリケートな問題である。
 しかし、それは人間の心理をよく見抜いたものであって、試験のための記憶というのは、一から十まで平等に記憶していくものではない。人間は、意味づけを以て記憶しているのが普通である。そうでない、円周率のようなものの記憶についても、達人は、何らかの意味づけを伴いつつ、記憶していくと聞く。意味づけなしでリズム感だけだと、凡人なら私のように小数点以下60桁がせいぜいのところなのかもしれない。
 ところが、意味の脈絡が少しでもできていると、極端な場合、頭文字だけでもヒントで教えてもらえば、後はすいすいと出て行く、ということもありうる。この本の記憶法は、そのあたりを狙ったものである。
 漢字、英単語、そして社会の項目という、著者の比較的得意な分野でその記憶法の醍醐味を、分かる人には分かるだろうみたいな述べ方で告げる部分は、思いのほか早く終わる。残りは、大学受験というものについて、とくにそのセンター試験というものの重要性と、その対策について、滔々と語る頁が続く。もしかすると、この本の真骨頂はここではないか、とさえ思われるのである。
 一見、小手先のテクニックのように見えないこともない。だが、歴史についても、事柄の背景という意味を理解しておかなければ記憶が進むはずがない、という立場は、すべての丸暗記を否定するからに違いないのであって、要領よく知識を頭の中に入れるために、実に有用な方法であると認めざるをえない。
 その代わり、この本に載せている情報量は実はそう多くないというところも、読者は悟らなければならない。この本に記憶法から大学受験の秘訣まで何もかもを要求してはならないのだ。それは、受験塾を営む著者の立場からすれば、当然のことともいえよう。
 だが、この本を基に刺激を受けて、私たちも能力を高めてゆこうではないか。




Takapan
ホンとの本にもどります たかぱんワイドのトップページにもどります