本

『筋肉の崩壊と常に闘う男』

ホンとの本

『筋肉の崩壊と常に闘う男』
鈴木進二
東京図書出版会
\1260
2004.7

 私にとり、かなり刺激のある本だった。
 著者は、進行性筋ジストロフィーに冒された、27歳になる男性である。小さなころから走ることに不自然さがつきまとっていたが、小学校のときに発病し、高学年から養護学校に変わり、後に介助コーディネーターとしての仕事を見つけていくという半生が本の中で紹介されている。
 基本は、要は「自立」の生き方を探るということであり、介助を受けながらも、そのことが決して引け目などにならないあり方というものを、表に出し、あるいは提案している。
 本そのものは、自分の紹介と、自分のやってきたことからの反省、これからの希望など、どこか作文めいたものである。しかし、嘘が混じっていないその述懐は、決して、障害者を哀れに思うとか同情するとかいう次元とは全く違う世界を開示する。
 福祉制度の中で、それに感謝するがゆえに、自叙伝を出版した、と「はじめに」に記されている。それでいて、福祉の問題点も、まさに当事者から指摘されるゆえ、すべての意見が生々しく、説得力のあるものとなっている。
 自立というものを、経済的・身体的・精神的の三つに分類し、著者は、精神的自立という概念を前面に押し出そうとしている。それが、障害者を区別しない考え方であるのだという。
 まあそれにしても、喋るだけでも体力を使い果たしかねない状況で、著者が、スポーツ観戦やコンサート、海外旅行など、エネルギッシュに動くことには驚く。それでも、一日のいくらかの出歩きに相当な犠牲を払う恰好となっているはずである。そうした実情も、読んでいくと悉く分かってくる。
 なにぶん、障害者自身の記述である。自立のためにも出版をしたのだし、また、福祉の恩恵を受けて世に何かを返すとすれば、このように障害者自身の声を明らかにして理解を求める働きもできるだろう、と考えている。
 今は一日ほとんど寝たきりで、20時間は鼻マスク式人工呼吸器を付けているという。その中での執筆であり、実に逞しい。そして、介護問題の現場を教えてくれる貴重な本となっている。




Takapan
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