本

『きみはぼくの』

ホンとの本

『きみはぼくの』
市川拓司
アルファポリス
\1365
2006.10

 必ずしも年齢としては若くはないけれども、比較的最近表に出てきた作家。以前も、奇異な小説のことで取り上げた本がある。
 今回は、文学作品ではなく、エッセイである。しかも、短いものが連載のような形式となって、一続きの説明になっている。それは、自分が本を書いてきた背景、その歴史、そしてその考えといったものを、明らかにしているものである。
 失うことについての切なさが、文章にかきたてているという初めの説明は、必ずしも引きずらず、自分の生い立ちや、それからデビューに至る過程を綴っている。
 考えてみれば、これが貴重である。
 著者が、ネット連載という中から、読者の反応を見ながら、やがて一冊の本へとまとめていく姿を細かく記しているので、どんなふうだろうという私たちの興味に十分答える内容となっている。
 いろいろ作家生活の実態を知るということで、読んで面白かった。
 ただ、一つ驚いたのは、著者が一種の心の病の中にいるということである。だからこそ、あの不思議な幻想的シーンや、猟奇的な表現の中に、たんにフィクションというのでなしに、一種のリアルな雰囲気を読者が感じるのであるかもしれない。
 純粋に、そうした本作りの一例ということで、そのときの人間の心理ということも含めて、文章を書く者にとっては、たいへん参考になる資料がぎっしり詰まっているような本である。




Takapan
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