本

『帰郷 島崎光正遺稿詩集』

ホンとの本

『帰郷 島崎光正遺稿詩集』
加藤常昭編
教文館
\1500+
2001.7.

 初版の10年後の第2版を入手した。教会の礼拝説教の中で触れられた本である。信仰者の輝きがある本は、読みたくなるという病気に、私は罹患しているのだ。
 ハードカバーで、丁寧なつくりになっている。故人の心を大切にする、編者だけでなく編集者や出版社の心が現れているようである。
 詩人・島崎光正は大正期に生まれ、20世紀の終わりに世を去った。幼くして両親を喪い、身体に障害をもつ中で、弱さを見つめると共に、弱い立場の人の声も担った。もちろん、詩人としての言葉には、美しさと力とがある。
 なによりも、キリスト者である。直接聖書の言葉を掲げたような作品もあるし、聖書の精神を根柢にした詩も多い。
 だが、私が本書を手に取ろうと思ったのは、もちろん礼拝説教で紹介されたことが第一であるが、本書が加藤常昭編となっていることである。
 1956年、加藤常昭先生が最初の任地として金沢に赴いたとき、友人から島崎さんの最初の詩集『故園』を受け、その詩集の虜になったということが、本書で触れられている(p145)。
 交流が始まり、島崎さんは、加藤先生の説教集を愛読するようになる。しかもそれを、ただ人の言葉として読むのではなく、そこで神と相対している読み方をしていたことに感銘を受ける。
 島崎さんに招かれて集会で話をするなどしているとき、本人から、葬儀説教を依頼される。そしてその一年後、それが現実のものとなった。
 本書の半分は、加藤先生が集めた遺稿となった詩を集めたものであり、後半は、加藤先生による島崎光正を論じた文章である。そのうちのひとつが、「島崎光正葬儀説教」であり、記念会としての礼拝説教も加えられている。このようなために、同一の事柄が重複していることがあるが、それは断った上で、それぞれの箇所に収められている。だからこそなお、何が大切なポイントか、も分かるようになっている。たとえば母親との関係についても、その詩の中でも描かれているが、本人から聞いたエピソードが重ねられてゆく。
 説教の中でも、幾つかの詩が引用される。その詩の中には、聖書の内容に由来するものや、ずばり聖書の記事を取り上げてのものもあるから、聖書を多少とも知ることなしには、詩の内容を感じ取ることはできないかもしれない。そのため、一般受けはしないかもしれないが、決して知識で味わうべき作品ではないだろう。
 この「まえがき」で加藤先生がまず取り上げた一節は、こういうものだった。
 
  神は はじめに
  天と地とを創造された
  地は形なくカオスがその上を覆っていた
  地球の柱時計はまだ眠ったままだった
  不図 神の指はうごめく
 
 もちろん、ポイントは「不図」であった。私もまた、説明を読む前に、そこに目が留まった。なんと読むのだろう。一瞬考えたが、すぐに感じた。「ふと」であり、こちらの人間の考えを超えたところにはいらく神の業を知らしめるものである、と。加藤先生はもっと詳しく解説をしていたが、それもまた詩人本人の意図と合致しているかどうか分からない。また、それでいいと思う。読者の心を掻き回して、それまで見えていなかったものが見えるようになれば、詩は確かに命を伴ってはたらいたこになるのであろう。
 巻末に、「作品一覧」があるのは当然であるにしても、「年譜」は、実に細かなものが掲載されている。これは、島崎光正さんそのものを記念する本なのだ。その「年譜」で、福岡にて生まれたということが記されており、私は驚いた。しかし一か月後に医師である父親が感染症で亡くなる。母親は故郷の長崎に帰り、赤ちゃんの光正さんは、長野の祖父母に養われて育つ。半年後に訪問した母親とは、その時が最後に会ったことになるという。この母への思いは如何ばかりか。この母親のことを知らされたのは、10年後であった。その5年後に脚の障害が悪化する中で、間もなく母親は九大病院に入院したまま亡くなったという。障害は、歩くことができなくなるようなものであった
 文学運動に関わるようになったが、戦争が始まる中で、その思想が取り締まりを受け、刑務所にも送られる。思想犯という扱いである。この頃に聖書と出会い、戦後、矢内原忠雄や森有正などとの出会いも経験し、間もなく植村環牧師より先生を受ける。教会では、後に障害者関係の活動をするが、詩作も実りをもたらす。
 亡くなったのは2000年11月23日、享年81歳であった。加藤常昭牧師が葬儀説教を務める。
 その人生を辿ったテレビ番組「SBCスペシャル 悲しみ多き日にこそ 詩人島崎光正が遺したもの」が2001年に放映された。この番組については、記録が見られるようになっている。https://www.bpcj.or.jp/program/detail/007863/




Takapan
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