本

『危険から身を守る本・自然災害編』

ホンとの本

『危険から身を守る本・自然災害編』
山谷茉樹
創元社
\945
2010.11.

 薄いハンドブックである。だからいい。
 サバイバルの知恵が、簡潔に載せられている。
 地震の大きな揺れを、二つ経験した。とくに阪神淡路大震災では、身近に――そして大好きな神戸の街が、崩壊した。何千人という人の命が失われ、何万人という人が、失った人や物の哀しみに明け暮れた。著者は、その災害救助にも携わっている。そこから、様々な声を聞いた。聞くだけなら、どのボランティアの方々も聞いていることだろう。だがそれを術として、本にまとめた。もちろん、著者はこれを様々な機会に人々に伝えようと努めている。知る者が、そしてうまく伝える才能のある人が、生きるための知恵と備えを、事実を基に宣べている。
 地震は、足もとが動かされる。だから、基本的にどうすることもできない。防ぐことはもちろんのこと、すぐにあれをしましょう、などという対処が、できないことを前提に考えておけばよい。
 たしかに、火の元は心配である。しかし、人間も、火については対処法を考慮してきた。暖房器具は、転倒により消火する仕組みを備えてきた。コンロなども、自動消火装置がはたらくように改善されている。
 だから、すぐに台所に行ってスイッチを、という心配は要らなくなってきたと言ってよい。むしろ、必要なことは、まず頭部を守ることだ、と著者は言う。頭部をとにかく守る。これで生存率は確実に上がる。確かに、言われればその通りだ。しかし、このことは、常日頃から脳裏にたたき込んでおかないと、咄嗟にできるものではない。運動や音楽は、いつも訓練しているから、それだけの演技や演奏ができる。からだで覚えている。果たして、このような護身術はどうだろうか。せめて、知識として身につけているかどうか、でもよいだろう。知る・知らないの差は大きい。
 布で口を塞ぐことの大切さも説かれている。煙の場合もそうだが、粉塵を吸い込むとその後に影響が出る。ハンカチ一枚で、生死が分かれることも十分ありうるであろう。もちろん、これも、知る・知らないの差が大きい。
 この本では、災害発生後の時間の推移における注意点を捉えているのがよい。まさに、災害に出遭ったものとして、起こる状況に可能な限り対応する仕組みがここにある。靴で歩いて帰宅するのに、どこで諦めるのか、その根拠は、そうした点が、きちんと説明されている。
 人が殺到する出口に向かわなくても、安全は確保できるなどの、考えてみれば当然と言えることも詳しく記されている。ともすれば感情で人は動く。デマが飛び交い、また、群集心理で動く。スタジアムでは出なくても安全である可能性があるならば、出口に殺到して押し倒されて死ぬほうが蓋然性が高い。竜巻ならば地下街は安全だ。
 そして、水が車のドアの半分に達するころには、おとなでもドアを開けることは水圧のために不可能となるから、そのあたりが車を捨てるかどうか見通しの境目だ、などと書いてある。家のドアだったら、実に浅い水量で、もう開かなくなるという。知っておくべきだった、と後から言わなくて済むようでありたい。そのドアは、地震で開かなくなる可能性かもあるのだ。
 なんとなく知識を集めただけの類似の本もあるが、この薄手の本は、有用という点で、光っている。これはいい。そして、一度読んでおくだけでも、十分命を守るために役立つこと請け合いである。

 この原稿をアップロードする準備に入っているとき、
 東北地方から関東にかけて、大地震が襲いました。
 この本が、まさに命を守れるかどうかの瀬戸際において役立つ可能性が高いこと、
 改めて感じます。
 祈るばかりですが、古舘伊知郎さんが放送の終わりに熱く告げていたように、
 こういうときにこそ、弱い立場の人のために考えて行動をしていきたい、と
 私もまた思います。




Takapan
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