本

『木々を吹く風』

ホンとの本

『木々を吹く風』
奈須瑛子
女子パウロ会
\1,400
2003.9

 妙な贔屓があって、著者が福岡県出身というだけで、親しみをもってしまう。そのうえ、クリスチャンとあっては、見逃せない。
 著者は、神学校で教会音楽などを教えた後、キリスト教の児童文学や歴史事典の編集に携わっている。スイスの研究所で学び、2001年からイスラエルで暮らしているという。  本は、タイトルにふさわしく、爽やかな風を終始送り続ける。エッセイと呼ぶべきものなのだろうが、外国での風景や人との触れあいを淡々と報告していく。気負った姿もなく、熱いメッセージがなされるわけでもない。それがメリハリのない、と言われることも覚悟しているかのように、あくまでも情景描写に徹する。だがそこには、聖書を深く知り、また聖書の描くものを現地で確認した者だけが語ることができる、真実の言葉があふれている。ともすれば、カトリック系のとある作家のように、現地をよくご存知ではあるものの、やけに説教臭い、それでいて自分の主張がまず最初にあってからそのために風景を描写しているような傾向がある中で、この著者は実に爽やかな印象を与える。柳に風という言葉を思い出した。
 読んだ人が、旅っていいなぁ、としみじみ思ってしまうようになったとすれば、著者の意図は十分成功したといえるのかもしれない。




Takapan
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