本

『子どもの発達障害と情緒障害』

ホンとの本

『子どもの発達障害と情緒障害』
杉山登志郎監修
講談社
\1260
2009.8

 健康ライブラリー・イラスト版というシリーズの一冊で、これまでも何冊かここから触れてみる機会があった。文字よりもイラストの面積の方が多く、理解しやすく配慮されている。見れば分かるという感じであり、ぱらぱらと見るだけでも一定の考え方が身につくし、必要ならば細かく見ていくこともできるだろう。紫系統の色が適宜使われていて、大切な事柄が色分けされているのも見易い。とにかく、細かなところまでよく配慮された本である。価格も手ごろであるし、もっともっと活用されてよいシリーズではないかと推薦したい。
 今回、Aくんが当該の事態に陥ったとして、どう対処し解決していくかについて、ストーリー仕立てで展開しているのも面白い。もちろんぴったりのケースが読者に常にあるとは限らないわけだが、一人のAくんという人格に起こった出来事として、段階を踏んでどのように解決していくかが有機的につながって説明されていくのがいい。こういうところについても、よく練られた企画であると感心する。
 子どもはもちろん苦しい。けれども、その家族も苦しいだろう。ことに多くの時間寄り添う形になるであろう母親の辛さにまで配慮がなされ、父親にできること、しなければならないことが的確に明らかにされているというのも評価できる。いや、ここにはよい家族のモデルが紹介されている、と言ってもよい。どこの家庭でも、子どもの中に、それからまた親子関係の中に、問題を抱えている。それに向き合って闘っていこうとする家族の姿が描かれているとも受け取ることができる。
 失敗や挫折の体験をもたなければならないこと、いじめがどうダメージを与えるかに触れて、即刻対処しなければならないことなど、子どもの教育の観点からも、すぐにしなければならないことが示される。
 だが、この本を読めば問題が解決する、というものではない。読者が自ら治療できる、などというつもりも毛頭ない。誤解に基づいて事態を悪化させないために、必要な常識としての知識を読者に与える本である。また、家族としての自分自身へもまた目を向けさせてくれるような本でもある。決してセンセーショナルな問いを発しているわけではないし、読者を煽るようなところも全くない。その意味で、これは良心的につくられた、役立つ本ではないかと思われる。
 心の傷を癒す方法は、単純に決めることはできない。ひとりひとり状況は違う。合う治療の方法も違う。神が人を癒すというのも、マニュアルに従って型どおりに癒していく、などというものではない。それでも、どうしても必要な知識や知恵というものがあるだろう。自分の子どもに問題があると思う親はもちろんのこと、子ども一般に教育をする機会のある人は、子どもの心のあり方や傾向について、大いに学ぶ必要がある。
 それに、障害と単純に決める事柄が果たしてそのようでよいのか、大いに反省する必要があるはずだ。教育の現場にも、活かすのでなければなるまい。




Takapan
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