本

『数の悪魔』

ホンとの本

『数の悪魔』
エンツェンスベルガー著
ベルナー絵
丘沢静也訳
晶文社
\2982
1998.9

 有名な本である。「算数・数学が楽しくなる12夜」という副題がついている。
 ロバート少年の夢の中に現れる、数の悪魔。連夜夢の中で、数学のレッスンが始まる。12のテーマで日々、数についての不思議な話が展開される。それが、ファンタジー小説仕立てで、楽しい。
 いや、私自身が、ファンタジー小説を楽しむ趣味がないものだから、時折退屈な展開だと思ったり、こんなにバンバン数学の知識を流し出してよいのかと思ったりすることもあった。ロバート少年に説明するにしては、かなり高度な部分を、かなりのスピードで出していないか、と案ずるほどである。
 だが、この少年が何歳であるかもよく分からず、おそらく小学校高学年あたりだろうと思われるが、何がどう高度であるのかなど、関係がないのかもしれない。ただ、中学生くらいのほうが読みやすいのではないか、とは思われた。もちろん、小学生が読んではいけない、とも言わないが。
 作者は、数学者ではない。ただ、文章は巧いのだろう。読ませるものは確かにある。数学的内容といえば、ちょっと数学面白話ふうなものに決まって出てくるような、ごくありきたりの内容が集められているわけなのだが、一般の子どもたちには、そのほうがきっとよいだろう。「よくあるやつだね」で片づけるのはもったいない。
 特徴的なことがいくつかあり、まず、夢に出てくる数の悪魔により、ロバート少年には、電卓を用いることが許されていること。何もかも計算しなければなりませんよ、という学校教育もありだろうが、単純な計算は機械にやらせておいて、その意味や考え方に気持ちを集中させていくというのも教育だろう。それをうまく使い分ければ、電卓はよい教材になる。近年、教科書にも電卓が取り入れられているが、それはたんに電卓の使い方というに近く、電卓を上手に使いこなしている、あるいは上手に使うにはどうしたらよいか、という方面には働いていないように見える。
 特徴的なことは、さらに、数学用語を面白く換えているところである。「ホップする」とか「大根」とか訳してあるが、これがさらに「うしろにホップする」となったり「びっくり」となると、それが何だということになる。ただ、「びっくり」は分かりやすい。「!」の階乗のことである。ところが「ガムがふえる」となると、全く見当がつかない表現であろう。たぶん、子どもたちにとって、これがなかなか楽しいのではないかと思う。よく見ると、解説の数式は、おそろしく真面目なもので、中学生でないと使わないようなものもあるし、先の階乗に至っては、今は中学生も使わない。それを、別の楽しい名前をつけることによって、さらりと目の前に置いて使ってしまう。
 数の悪魔の名は「テプロタクスル」ということが、終わりのほうで分かる。これ、何のことなのでしょう。ネットでも殆ど検索されないのだ。ストーリー的にも、この名が何か意味をもつようには見えず、謎が残されているように思うのだが、どなたかご存じの方、教えてください。




Takapan
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