本

『家族の衰退が招く未来』

ホンとの本

『家族の衰退が招く未来』
山田昌弘・塚崎公義
東洋経済新報社
\1575
2012.4.

 このタイトルだけでは、本で触れてある世界が見えてこない。サブタイトルにある「「将来の安心」と「経済成長」は取り戻せるか」があって初めて、これは経済の話なのだと分かってくる。
 そう。タイトルだけでは、何か家族社会学であるのか、心理学であるのか、どういったアプローチであるか分からない。通常このタイトルだけでリストには載ってくるだろうから、提案なのだが、サブタイトルでなく、タイトルの中に、経済の二文字を織り込んだらどうだろうかと思う。
 それは余計なお世話だが、本書のテーマは、日本経済の復興である。経済の予測は天気予報より見定めがたく、何の要因が、またどんな突発的な出来事が、経済を替えていくか分からない。バブル経済の破綻に関するある事柄について、著者自身、見抜けなかったことを悔やんでいる。過去を振り返れば、あるいは傍から見たり、対極的に見下ろしたりする立場にいれば、見えてくるものがあるかもしれないのだが、その現場にいる当事者としては、なんとなく流されるなどして、なかなか見えないのが実情である。警察のお偉方の集まりでも、特別手配の容疑者の出現のニュースの際に、なんとなくの気分で酒宴をやってしまうほどなのである。
 経済に大きく影響を与えるものは、やはり大企業であったり、輸出入の事情であったりするものだ。円相場も一円違えばとんでもないお金が動き、損失も何百億と簡単に出てしまう。産業構造まで変えてしまうのだから、マクロ構造へはどうしても視点が向きやすい。しかし、経済の基本は家計にある。ひとりひとりが小さな力のようでも、一斉にたんす預金が増えれば、経済全体に大打撃がもたらされるようなこともあるのだ。わずかな買い渋りの心理が、日本全国に及ぶと、一企業では太刀打ちできないはてしない経済的影響が現れることにもなる。
 では経済を動かすその家族という形態は、どういう影響を与えるのか。つまり家族形態の変化が経済にどのような影響を与えていると言えるのか。そして、その過去を嘆くようなことをしても仕方がないのだが、その現代的家族像を刺激して、経済の流れを豊かにするためには、どうすればよいのか。それをこの本は模索しようとしている。
 つまりかつての「標準家庭」が今ではもはや通用しなくなってきているし、著者の一人は「パラサイト・シングル」という語をもたらした当人であるように、結婚しない・できない人とそれが親と同居しているというあり方により、経済の行方を考える標準の家計なるものが従来の通りではうまくいかないことが分かってきている。かといって、そのパラサイト・シングルが唱えられたころのその状況と、その後、また現在の状況とでは、また違ってきているともいう。パラサイトしていても、かつてほどには安穏とできていないというのだ。
 こうした、家族という視点を忘れないようにして、経済の領域に絞り、また経済全体に与える影響を考慮しながら、経済のこれまでの分析を行い、経済のこれからを考えていく、というのがこの本のしてくれたことである。
 経済を知らない私には、これ以上難しいことは分からないし触れられないが、現在の政策をもっとダイナミックに活用して、経済の将来を明るいものにしようという意気込みがつよく感じられるように思った。それはやや楽観的に過ぎるかもしれない、とも思う。だが、悲観ばかりしていても仕方がないのも事実である。何か打開策はないものか。たとえば終わりのほうで、オランダの方法が紹介されている。正規社員と非正規社員との差をつけない制度が始まったというのである。労働観や生活意識の違う日本でそれがそのまますぐに採用されるとは思えないが、女性労働者の活用方法といい、紹介されている試案はなかなか説得力がある。総論ばかりで具体的な点でどうなるかの検討は見られないようだが、これだけの本では仕方があるまい。後は、私たちがどうするか、である。
 本書で触れられていたように、おのが党の益が第一目的で、政局のための論争ばかりであるならば、本当に日本全体の利をどうするのか、ということは二の次になってしまう。もはや後回しや先送りばかりではいられなくなってきている。少子化からの回復もこの家族論には触れられている。全体の益のために政治家も経済学者も、働いて戴きたいと強く願う次第である。




Takapan
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