本

『かぜとインフルエンザ』

ホンとの本

『かぜとインフルエンザ』
岡部信彦
少年写真新聞社
\2100
2008.11

 ビジュアル版、新・体と健康シリーズ。そういう一連の本のひとつであり、「知って防ごう」とある次に、表題の「かぜとインフルエンザ」が掲げられている表紙である。その下に、「鼻かぜから新型インフルエンザまで」とある。
 よく学校の階段や廊下に、「少年写真新聞」が貼ってある。結構なお値段のする掲示物である。授業参観で学校に行くと目に付き、けっこう見てしまう。
 子どものために、ニュースを分かりやすく伝える。それを使命としているように見える。たしかに、難しいことを難しく言うのは、実は苦労のいらないことなのであって、難しいことを易しく説明するというのが、最も高級な技術であるとされている。この新聞は、そういうところを目指しているのではないか、と推測する。
 さて、この本がまた分かりやすい。えてして、大人は気取っているから、いまさらそんなこと人に訊けない、というプライドをもっているところがある。しかし、新型インフルエンザとはどういうものか、ということについて説明をいざ求められると、ニュースでお決まりに出てくるだけの言葉しか頭に浮かばず、「なんか、鳥インフルエンザのことじゃない?」などと答えてしまいそうである。
 著者には、国立感染症研究所の方を選んだ。こちらも気取っているのだろうか。そんなことはない。これがまた、見事なまでに、子どもに理解できるような言葉を使い、それでいて感染防止のメカニズムを説明している。
 いつも言うことだが、大人は、子ども向けの本をもっと読むべきである。多分、一読でよく理解できるだろうし、そうやって理解したことは、確かな知識として自分のものになりうるのである。このインフルエンザ問題は、大人だって、他人事ではないことは分かっている。だが、ああすればこうすればとマスコミが面白おかしくあるいはセンセーショナルに伝える知識が、事態に立ち向かうために十分な理解を伝えるとは限らない。対処法は伝えても、原理なんぞをじっくり説明していると、チャンネルを換えられてしまうから、そんな野暮なことはしないのが通常なのである。
 さて、この本は、大きく三つに部門を分けている。まず、風邪とインフルエンザの違いが明らかにされ、インフルエンザについての基礎理解を深める。ここがきっと肝要なのだ。次に、体内にウィルスが入ったときどういうメカニズムが発生するのか、が説かれる。粘膜のしくみから抗体など、そして免疫の仕組みなどが、イラストや写真がふんだんに使われて伝わってくる。最後は、これらの予防と治療についてである。手を洗うにしても、こんなに写真で丁寧に何をどうするのか教えてくれる本というのは珍しい。口で、しっかり洗いなさい、ということは誰しも簡単に言うが、その「しっかり」とは何をどうしろということなのか、具体的に分かっている人が、はたしてどのくらいいるのだろうか。ファストフード店のマニュアルに、手洗いの仕方というのがあるらしいが、そういう日常を送らなければ、分からないものなのだろうか。いや、ここに細かくそのひとつひとつのことを示した本がある。そして、手洗いの次に大切なのが、マスクのことだと聞いてちょっと意外に思った。うがいはどうなのだろう、と。すると3番目にうがいが説明される。欧米では日本のようなうがいはしないのだという。うがいは、風邪予防に決定的に効く、と私は単純に思っていたが、著者によると、そうでもない。しないよりはしたほうがよいが、それほど大きな予防効果が認められないかもしれないのだという。それは、殺菌が強いと、口の中の良質の細菌までも駆除されてしまうからである。
 もちろん、ワクチンについても説明される。もう子どもが知るには申し分ないわけだし、おとなだって、この本に書かれていることのすべてが分かっている人など、稀ではないかと思う。プロは別だが。
 もちろん索引もあるし、科学書としては申し分ない。ひとつ、私が読んでいて分かりにくかったことを示そうと思う。それは、最初のほうで、細菌とウィルスとがどう違うのか、書いていなかった、ということである。もちろん、そのうち説明が出てくる。しかし、本の最初のほうで、さかんにこれら二つの区別が扱われるのに、そこではこれらの違いが説明されていないのである。子どもにとり、よく分からないままに長く引っ張られるのは不安であり、また読むのをやめたくなる一つの理由となる。疑問に思うのはよいとして、それは間もなく解決してほしいのである。細菌とウィルスの違いを具体的に、もっと初めのほうで示しておいてよかったのではないだろうか、と思うのである。
 医師へのかかり方、薬の呑み方やその仕組みなど、風邪に関することは様々な角度から載せられている。事は命に関わる問題である。一読してほぼ理解できるというのが、大人にとっては実にいい。ありふれたと思い込んでいるこうした病気について、学んで、理解を深めていたいものである。
 それから、全編ふりがな付きなのだ。イラストも豊富で、楽しく読めること、間違いなしだ。




Takapan
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