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『こんなに変わった!小中高・教科書の新常識』

ホンとの本

『こんなに変わった!小中高・教科書の新常識』
現代教育調査班編
青春出版社
\1000+
2018.2.

 学校の教科書が大きく変わってきている。さらに変わっていき、タブレット授業が増えていくことも明白だが、親はそれをまだよく理解していない。いや、親たる当事者であれば、いくらかは知っていくことになるが、そうでない一般の大人たちは、全く知らないままに自分の社会生活をしていくことになる。
 私は業界の人間なので、その中身はよく知っている。だから本書についてもぱらぱらめくっていくだけのつもりだった。が、不思議なもので、ぱらぱらにしても知っていることが多いので、結局読んでしまっているのだ。そんなものだ。
 ターゲットは、いまの小中高校生の親世代ということなのだと思うが、30年40年前の教科内容といまのとは確かにずいぶん違う。それを科目毎にひたすら並べていくというのが本書の仕様だ。こうしてただずらずらと見ておけば、どれかが心に残り、酒の席での話のネタにでもなろうというところであろうか。
 しかし科目毎となると、国語や算数あたりが最初に来そうなのに、ここでは歴史である。すでに社会科ですらなく、歴史である。そして、歴史だけで本書の半分までいってしまう。最初少しは教科書一般についての説明があるから、歴史は実質35%以上あるのだから驚く。そして地理も公民もない。これが、大人向けの本の特徴だと言える。大人にとり「へえ」と思わせる題材から攻めるのである。
 歴史はそういう意味でインパクトがあるのだ。実際、こうした新しい教科書について紹介する報道番組でも、具体例として挙げられるのは、まず歴史である。歴史的偉人の肖像画がかつて常識だったものがどんどん否定されていることや、聖徳太子の実在性さえ疑われていることや、鎌倉幕府の語呂合わせとの兼ね合いなど、大人にとり分かりやすいものが例示されるというわけである。
 実際、塾で教えているからこそ、私もテキストから「へぇ」と思うことはある。「踏み絵」が「絵踏み」となっているのにかつて違和感を覚えたが、すぐに、それは理に適っていると膝を叩いた。「踏み絵」は、踏まれるその絵のことをいうが、絵を踏ませることを言う言葉としては相応しくない。日本語は、合成された場合には、後に置かれたほうがメインなのだ。
 歴史の次は、もう理科と算数が一緒になっている。理科系科目の教科書の変化が、一般受けしないためだろう。脂肪を分解したものが脂肪酸とグリセリンというのは、モノグリセリドであることが科学的に分かってきたための改正だ。リットルが大文字のLになったのはけっこう突然のようにすら見えた。力の単位をNを基準にすることは、計算の必要もあって、直ちに対応しなければならなかったが、こうしたのは実際に問題を解いて教えている現場では、たちまち分かるものではある。それに第一、一般に理科や算数の話は毛嫌いされがちなので、本書でもとくに算数の話題は貧しい。ごまかすために、カラフルになったということを算数の欄にもってきて、ページ数がそこそこ増えるように画策しているくらいだ。
 社会科は、国語や英語と同じ章に吸収されて、話題にするのは貧相である。この歴史との差別がどこからくるのか、私はよく分からないのだが、実際読者ウケはいいということならば理解できる。
 国語と英語も、少なすぎる。国語については、変化がないのだろうか。取り上げられている話題も、インパクトのないものがなんとか項目数を増やすために並んでいるほどである。英語も実に頼りない。もう少し取り上げてもよいだろうと思うのだが、歴史で使いすぎた頁は残り少ないので、どうしようもないのかもしれない。
 最後には他の科目や学校生活の変化が、ありったけ並べられる。遠足のお菓子を自分で選ばないことなども、子どもたちと直に接していると耳にするのだが、本書にもそのことがきちんと書かれてあるので、いまの学校の教科書としての意味合いについては、ひとつ忍ばせておくと、年齢の高い方も、ちょっと子どもの前でいい顔ができるようになるかもしれない。
 しかし、肝腎のデジタル教科書については、最後の項目で申し訳に付いているだけで、もったいない。このデジタル処理とその具体的な教室風景というものが、年配の方々には想像しづらいからだ。特にその後新型コロナウイルス感染症の関係が学校からクローズドになったとき、ネット配信などへの注目度が期せずして上がったことになるが、教育の大きな変化に戸惑った大人の方々も少なくないだろう。こうしたことについては、また改めて別の本で詳しく扱うというほうがよいと考えたのではないかと推測される。
 それにしても、新書でこのどこかイージーな制作と暑さからしても、本書が1000円というのは、私には少しばかり高価すぎるような気がするのだが、時代はそういうものだということになっているのだろうか。もちろん私はこれを中古で買ったのだし、100円+税でせしめている。販売元からすると気の毒かもしれないが、これも新しい感覚だというふうに言っては失礼だろうか。




Takapan
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