『可愛がられるために来た』
松井るり子
学陽書房
\1680
2005.10
不思議な本である。そして、優しい本である。
人生のベテラン領域に入った著者が、子育てについて語る。あるいは、夫婦関係について。絵本を題材として語るのは、そのお仕事に関係してのことでもあるが、時に分かりやすく、時に分かりにくい。それは、一女性からの視点に徹して、優しさを貫こうとしている故であるのかもしれない。
このような言い方をすると、抽象的で何のことだか伝わらないものであろう。
「子どもと暮らせば大人が育つ」とサブタイトルにあるように、大人と子どもとの関係が、体験を基に、はっきりしたポリシーをもって、追究されていく。
もしかすると、ありきたりの子育て論が構えられているかのように見られるかもしれない。だが、私の感じ方では、そうではない。シュタイナー教育に長男を委ねるなど、3人の子どもたちを育てる母親の経験は偉大である。出産時の扱われ方について、言いたくてたまらなかった主張をも、20年越しにようやく発言するなどの奥ゆかしさも伝わってくる。それだけ、厳密に深く物事を捉えようとする、誠実な人柄が、そうさせているのであろう。
子どもから学べば、きっと明るく前向きに生きていける。子どものような心に気づけば、大人の現実の中ででも、大切な何かから外れることなく、生きていくことができる。女性として、地に足のついた生き方が、男の論理とは違う響きを持って、伝わってくる。
だからこれは、女性もそうだが、とくに男性が読んでどう感じるか、という反応を知りたいように思う。私は曲がりなりにも子どもと向き合う日々を経験する中で、著者のパースペクティヴが、完全ではないにしろ、だいぶ見えてくるような気がするのだ。
今の世の中に必要な視界は、もしかするとこの本の中に開かれている地平ではないのか、とさえ思えてくる。