本

『加藤常昭信仰講話3 主イエスの譬え話』

ホンとの本

『加藤常昭信仰講話3 主イエスの譬え話』
加藤常昭
教文館
\2000+
2001.2.

 発行は遅いが、この内容がFEBCで放送されたのは1977年である。初めてこのキリスト教放送局で講話を担当して未知の世界に足を踏み入れるようであったそうだが、だからまた放送をそのまま文字にしたのでは(著者自身が言うには)未熟であったと言い、本にする上で適切に手を加えたのだという。だが大筋が変わることはないだろうと思われるので、大いにこの若いすぐれた説教者による「譬え」の味わい深い理解を堪能できるものとして、秀逸であった。
 半年間、全26回の放送内容なので、最初に聖書の箇所を挙げ解説をするという形式と、分量は毎回同じだと言える。しかし私の印象では、これは解説というよりも、説教と言ってよいものではないかと思われた。一つひとつの回に、明確なメッセージ性がある。それはなにも神学的な解説である訳ではない。ギリシア語を挙げ活用を示し、などといったものではない。ひたすらどう読み解くか、特に著者自身がどう受け取っていったか、という足跡を感じさせるものであって、私の感覚ではどう考えても説教であった。そのおつもりで読まれたらよいと思う。
 もちろん、礼拝の場ではないので、説教と呼ぶのは相応しくない。その意味で「講話」とシリーズが名づけられているのかもしれない。このシリーズは数冊読ませて戴いたが、どれも説教として通用する内容であったと感じる。つまり、それぞれに神との出会いが期待され、あなたはどうかと問いかける、そういう聖書の解説であったのだ。知識としてこういう意味ですよ、で終わりはしないのである。
 ルカから取り上げるものが比較的多いように感じたが、それだけルカが独特の譬えを、しかも深く考えさせるものが多いというせいであるかもしれない。それにしても、「失われた息子」については、なんと三回連続で、譬えを三分割して説き明かす。サマリア人についても二回に分けてある。こうしたものを一回に無理に詰め込むのはよくないのであろう。というと、教会の礼拝説教でも、こうした譬えをひとつの礼拝の中で説き明かすというのは、深みを生かせないということになるのかもしれない。確かにこの息子の話は三回で話に相応しい深みや膨らみがあった。それほどにゆっくり味わわせて戴いたのはありがたい。
 マタイの福音書の、いわゆる山上の説教の最後に、押し流されない家を建てる話がある。これは厳密には「譬え」と呼ぶことの難しいスタイルの話であろうと断ってあるが、それでもひとつ取り上げている。それでよかったと思う。山上の説教の最後にあるということは、私はそれなりの意味を強くもつものであろうかと考えている。ここでもイエスは、あなたがたは知っているのか、と問いかけている姿勢を以て迫ってくるように説かれている。これほどに山上の説教で様々な教えを並べてきたマタイであるが、これらすべてについて、あなたはどうか、と問うておられる、という解釈である。キリストの言葉なのに、キリストの言葉として聞いていない、ぼんくらな私たち。しかも具合の悪いことに、自分が聞いていない当人に限ってまた、自分は聞いていないのだということに気づいていないし、気づこうともしない。自分では正義だと思い込んでいるという事態を、著者は鋭くラジオの聴者、また本書の読書に問いかけている。これが実はとても大切なことなのである。
 このことは、次の「種まきの譬え」についても同様の強調をしていることから、このシリーズで何を告げたかったかということが、よりはっきりとする。私たちは実は聞けていないのである。何度も聞いていたり、また有名だからよく知っているよと思ったりして、私たちの心は油断する。その意味は知っているよ、知識があるよ、と初心者向けのようにすら見下してしまう。そこに罠がある。
 こうして最終回は、「新しいぶどう酒は新しい皮袋に」で締め括る。これにも意図がある。あまり露わにしてしまうのもどうかと思うが、譬えがすべて昔の話ではなくて、いま私たちに響くべきものであること、だから私たちは今日もまた聖書を通じて神と出会い、交わることで新しくなるのだ、新しい世界への希望が生まれ、喜びの中に入れられるのである、そんな喜びのメッセージで、本書は貫かれ、そして結ばれる。
 喜びは、安穏とする生温いものではない。実に厳しいものだ。自己吟味というか、自分が何も覚っていないということを覚らなければ、分からない喜びである。それは「十字架を突き抜けて」甦ったイエスを通してもたらされるものである。聖書をどう読むか、という問題になると、このように読まなければ命を得ることは難しいだろう、と思われる。それくらいに鋭い、的を射たメッセージ集である。私はそう確信する。




Takapan
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