本

『これだけは語り残す戦争体験』

ホンとの本

『これだけは語り残す戦争体験』
日野原重明監修
2003年度「新老人の会」編
講談社
\1365
2004.3

 日野原先生が開いた会が、使命感に燃える。戦争を伝えておかなければ。
 このグループには、75歳以上でなければ参加できない。そうしう高齢の方々が、自分の戦争体験をそれぞれエッセイとして形作った。それは文筆活動豊かな人ではないゆえに、文章としてはさほど巧くないと言える。だが、これは真実の声である。演技ではない。自分の青春を返せという叫びも加わる。
 毎年、原稿を集める。残しておかなければならない戦争体験。その意識が、このお年寄りたちをさらにパワーアップさせている。43名のメンバーが、心を絞り出すように、戦争の悲惨さを伝えている。
 戦地に赴いた人、戦地で夫を失った人、戦争により青春を失い運命を変えられた人……たんに観念的に、戦争反対を唱えるわけではない人々の声を、私たちは聞きたいと思っている。戦争というものを、高い地位の立場で、比較的安全なところから見ていたような人は、この中にはいない。むしろそういう人たちの手足となって働き、犠牲になる立場にあった人々ばかりである。そしてそれが、日本人の大部分であった。
 だから、痛みを伴いつつ語る。今生きていることの不思議さと、子や孫たちに、あの戦争の禍を潜らせてはならない、と。そのためには、国際的な強調が必要であることが、しきりに口に出てくる。あの戦争が何だったのか、半世紀を過ぎて、もうそろそろ一定の評価に落ち着くところまできているのではないだろうか。それは、戦争を直に知る人々が息絶えぬうちにしておかなければならない。戦争を知らずして、戦争が体よく語られるとき、日本は、そして世界は、もう取り返しのつかないところまで流されてしまうであろうから。
 この本は、毎年発行されるらしい。次々と、「これだけは」という思いが出てくるのだから、とことん出してほしい。「私たちの遺書」というサブタイトルも、決してポーズだけではないのである。
 どうか、もっともっと聞かせて欲しい。私たちも、それをしっかり聞きたいのです。




Takapan
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