本

『下流大学が日本を滅ぼす!』

ホンとの本

『下流大学が日本を滅ぼす!』
三浦展
KKベストセラーズ
\740
2008.8

 かなり売れていた新書らしい。サブタイトルは「ひよわな"お客様"世代の増殖」と付いている。
 センセーショナルなことを言えば言うほど、世間が喜ぶと信じている人がいる。そして、過激なことを言ったほうが、世間の話題となり、本がよく売れると考える著者もいる。
 もしそうでなくて、この本の著者がこうした本を著しているのだとすれば、それはもう助けようがないくらい自己中心の塊みたいなものではないかとさえ思った。
 読まない方がいい。
 自分が聞き知ったいくらかの極端な例が、恰も全部の学生や新入社員であるかのように取り上げ、徹底的に人のことをバカ呼ばわりし、貧民呼ばわりする。およそ品格などないばかりでなく、その語り口調も含めて、これは2ちゃんねるよりもたちが悪いと感じた。
 著者自身、「あとがき」になって、自分の書いたものには統一性がないみたいなことや、裏付けのない推定もある、などと言い訳しているが、こうした言い訳を最後にするところを見ても、著者には誠実さなどというものがないことがはっきりする。たとえぱ、終わりのほうでしきりにネット利用の大学を推奨するが、そもそもネット通信でコミュニケーションをとることを本文でこきおろしていた部分もあったし、早く若者を社会に出せと言いながら、中学は6年間必要だなどと言い始める。およそ自分以外のやり方は、すべて欠陥でしかない、という決めつけのように見えてくる。
 とにかく、口汚く人を罵ることが一冊ずっと続くので、まともに読んでいくと、不愉快さばかりが増してくる。そして「自分はそのころああだったこうだった」と自慢が始まり、すべてが自分を基準としているに過ぎないことを露呈する。その「俺が俺が」というご自分は、さぞかし立派な成功者であるに違いない。結構なことである。
 芸人ならば、こうした過激なはたらきかけでウケるという道もありそうな気がするけれども、そういう毒を吐いて人を笑わせているということでもないようで、相当にマジであるところを見ると、私はこの著者の精神状態に、何か一定の症例が専門家には読みとれるのではないか、という気がする。
 たぶんいくつか本が売れたことで、ずいぶんと金回りがよくなったのだろう。そんな毒を吐いて売れたことで出版社からちやほやされているうちに、本当に自分が偉くなったと勘違いしているのではないかと思う。札束を片手に、金のない者がますます生活能力がないなどとバカにするようなことを言い散らかす。
 たしかに、ある存在を徹底的にけなすと、一部の人を敵とするかもしれないが、日頃その存在を好ましく思っていない層の者もいるわけで、その層の全面的な支持を受けることがある。敵の敵は友というわけである。すると、本はその層にウケて売れる。それゆえに、著者は自分の考えは普遍的な真理であると勘違いすることもあるのだ。
 そういう妄想系のところがあるのかもしれない。
 こういう本が愉快だと思うようになったら、危険信号だろうなと思った。自分は偉い、あいつはバカだ、ということばかり言い連ねた本である。読者のあなたも、そうした人間になりたいのなら別だが、読まないほうが、人として全うな歩みを続けられるように感じる。




Takapan
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