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『冠婚葬祭のひみつ』
斎藤美奈子
岩波新書1004
\777
2006.5
学研の『○○のひみつ』シリーズからタイトルを決めたという軽いノリ。しかし、内容はズバッと重い。考え方に方向性があるため、反発を感じる人もいるかもしれないが、昨今の冠婚葬祭に鋭い論評を続けている。
そもそも、冠婚葬祭とは何か。とくに「冠」が怪しいし、「祭」自体意味が分かっていない向きもあるという。いや、この「冠」の怪しさは、あるエポック――『冠婚葬祭入門』という本――以来、当然のこととして仕方がない事態になっていることが、読み進むうちに分かってくる。
なぜ葬式仏教と呼ばれるのか。歴史的に辿り簡潔に説明した本は少ないのではないか。それが昨今の家族形態ではどうなっていこうとしているのか、そんな視点から、本書は始まる。
結婚について、近年の現象の変遷も踏まえて、何がどう変わってきたのかを明らかにする。そもそもが、古来の婚礼をベースに考えると、婚礼のマナーの常識とされているものが、実に最近独自のもので、どこか作為的であることが、次々と明らかにされていく。
ブライダル産業の現状についても、いわば面白おかしく語る。筆者の口調は、ときおりくだけて、どこかふてくされているかのように呟き捨てるので、読む方もくすっと笑ってしまう。読み手の感情に合わせてあるとも言えるし、壇上から聴衆に語っているような臨場感も覚える。
葬儀については、現実的な問題も正面から捉え、あたりさわりなく記してある葬祭マナー云々の本とは一線を画している。最近の業界や傾向の報告にも触れた上、墓地のことも含め、興味深い。
こうして冠婚葬祭の実情を知ってしまうと、「なあんだ」と呟きたくなるような心境である。
繰り返すが、独自の思想に基づいて綴られているところもあるため、筆者のスタンスを理解した上で読むべきだと思うが、それにしても、この本から得られる情報は大きい。
まさに「ズバッ」と斬り込む追及に、冠婚葬祭を控える私たちは、大いに力強い知恵を得ることになるであろう。
なお、結婚についての説明の101頁からは、キリスト教関係者は必読である。「街の結婚」の実情がこれほどはっきりと暴露された本も珍しい。厳しい内容だけれど。