本

『漢字 ちょっといい話』

ホンとの本

『漢字 ちょっといい話』
榊莫山
講談社
\1,500
2003.10

 肩に力の入らない本である。莫山先生の風貌も、どこか仙人めいたものがあるが、本の内容についても、桃源郷から語るような響きがあり、妙な心地よさ、癒しといったものを感じてしまう。
 ところどころ、印刷ミスなのか校正ミスなのか、誤った文字や表現が見つかるが、それらもご愛敬だと言わせてしまうような、著者の人柄あるいは雰囲気といったものがある。
 漢字の歴史についてもコラム状に記されていて、勉強になる。殷や周の時代のことから、唐の時代にかけて、漢字にまつわるエピソードが、長すぎず短すぎずしたためられているのも、読みやすい。
 はっとしたのは、「多」の字についてのコラムである。教室で子どもたちの漢字のテストなどを見ているうちに、私が最近、不思議だなあと思っていたことがあった。「タ」を二つ重ねたこの漢字が、多くの子が、妙なふうに書くのだ。縦に重なるのではなくて横向きに重なる字を見たのである。最初は、偶々その子が書くのかと思っていた。が、見る答案、見る答案がそうなってくると、これは偶然ではないと奇怪に思うようになった。
「多」が「タタ」となる。莫山先生に言わせれば、これは、横書き中心になってきたことの影響だという。横書きに適している姿に変わってきてしまったらしい。
 一つのことについて深く掘り下げたというわけではないのだが、逆に、詳細に過ぎず、程よい満足感を与えてくれる本であった。なんだか、著者の温もりのようなものが感じられる本だ。本というものは、こんな作り方もあるものなのだとしみじみ思った。




Takapan
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