本

『神を信じるってどういうこと?』

ホンとの本

『神を信じるってどういうこと?』
キム・ミンジョン原作
キム・ドクレ文・絵
藤本匠訳
いのちのことば社
\1800+
2014.1.

 先にこのシリーズの第一弾『神なんていないと言う前に』をご紹介したことがある。韓国発のマンガ形式のキリスト教紹介であったが、それはタイトルから推し量れるとおり、おもに無神論に対する挑戦であった。韓国では、これがなかなか手強いのかもしれない。日本でも、「無宗教」を標榜する人は多いが、たいていは、「無神論」者ではない。そこで、『神なんていないと言う前に』は、内容的にすばらしいものではあったも、日本社会への緊急の提言とはなりづらい面があった。微妙に論点が違っていたようにも見える。
 ところがその第二弾が三ヶ月の時を経て出版された。形式は似ているが、原作者も筆者も違う。ただ、3人に1人がクリスチャンであるという韓国社会においては、これだけのものを生み出す土壌は豊かであるのだろう、才覚ある人がいくらでもいるような気がする。
 こちらは、日本社会にもそのまま適用できるように見えた。誰でも読めるという言い方はおかしいかもしれないが、誰が読んでも何か感じるところがあるだろうと思う。もちろん、反発を覚える人もいようし、むしろすんなり受け容れるというようなあり方をするものではないだろう。きわめて個人的な信仰のあり方が描かれている。周囲の人と合わせていこうという態度をとりがちな日本社会の中では、個人的な信仰を前面に出すことは難しいとも言われる。ただ、これも若い世代ではどうかというと、個人的な霊的体験を求めている空気が強くなっているとも見られているから、分からない。
 第一弾に続く同じ訳者の腕前はなかなかである。こなれた、しかも信仰の内容をぐっと捉えた訳で、韓国在住という点も含めて、両国の仲立ちをするに相応しい人材であろうと判断できる。正直言って、私はこの本に何度泣いたか知れない。伝道者のショートメッセージを浴びるかのようであったし、それも日本語として適切で自然であったということだ。引っかかるところがなかった。
 伝道者は、難しい神学を振りかざすことはしないだろう。聞く誰の心にも届くような言葉を投げかけることだろう。しかも、たぶんに個人的に、心に差し込んでくる光のような言葉を連ねていくだろう。そのために有効なのは、例話である。福音書の場合は、イエスが譬え話で話したというように、現代でも、伝道的なメッセージに不可欠なのは、譬え話、例話であろう。そのとき、時に単純に、時に長いドラマ仕立てで物語のように提示する。その内容を理解したとき、そこに潜んでいる福音の真理が理解できるようになるという仕組みである。その意味で、この本は実に例話が巧い。心憎いくらいに、巧い。何ごとでも、たとえば、ともちかけて、ある事例をもたらし、そこに福音の真実が見られるということを伝える。もちろん私は聖書をそれなりに読んでいるし、信仰をもっているから、その例話は痛いほどよく分かる。実際内容的にも翻訳としても適切なものが多い。ただ、聖書の内容を知らない人、初めてこうした話に触れる人がどのように受け止めるものだろうかと、そこが私には計算できない。まして、キリスト教に反発を覚えるような人がこの例にどのように反応するだろうかということは、興味深い。もちろん、それもまた人さまざまであろう。それでも、何か感じるところがある、と思うような人もいくらかは現れるのではないかと思う。それが直ちに信仰をもつという意味ではないにしても、何かしら印象を遺していくような描き方がなされている、と私は感じた。
 本は、信仰を受け容れるというレベルにまで達することを目的として流れていく。教会というところの醜さのようなものも描いている。だが、人を見に教会に行くのではないことは明らかにされているし、私も多くの場合、同意見である。もしこれが文章だけであったら堅い、あるいは強気だと思われるような表現が続いても、マンガのユニークさがそれを和らげてくれる。また、内容を直感的に理解できるように変換してくれる。マンガの威力を感じるものである。
 そういうわけで、私は個人的に、第一弾よりもこちらを強く勧めたい。いや、教会生活を始めた人、あるいは長く続けている人にとっても、改めて「そうなんだ」と納得させるようなものがたくさんある。すぐれたショートメッセージの集まりでもあるし、教会や信仰生活の現状について生々しく描かれてもいる。神へ請求書ばかり突きつけるマンガのシーンは、心がちくちく痛むほどである。だが、確かにそこに真理があり、福音に満ちている。どのような派のキリスト教会の人が読んでも違和感のない、共通の福音の真実に留めてある点も、優れた点だと言える。ただ、韓国では、「キリスト教」と呼ぶのはプロテスタント教会であり、別にわざわざ「カトリック」と呼ぶほどであるから、この本にはカトリック独自の視点というものは取り入れられていない。だから、カトリック教会の方々から見れば、まだあれもこれも言うべきだ、というような思いがあるかもしれないが、それでも、福音の神髄という点では、同意して下さるところが多いのではないかと予想するが、そこも私は断言できない。
 マンガではあるが、文章量も実に多い。決して高い買い物ではないと思う。「信仰生活がわかる一冊!」と帯に書いてあるが、信仰そのものだと記しても何も問題がないだろう。豊かな譬え話は、教会学校などでも実に応用の利く、優れものだと言える。また事ある毎に読み返したい。




Takapan
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