『「書けない」悩みに効く論文執筆術』
ジョリ・ジェンセン
後藤伸彦・波多野文訳
日本経済新聞出版
\2000+
2025.10.
横書きでやや縦長の製本で、何版というのだろう。新書を二回りほど大きくしたような感じの体裁だ。少しアカデミックな感覚をも与えると私は勝手に想像している。
論文の書き方のコツのようなものがここにある。アカデミックな論文に対するもので、大学以上の学問に相当する。いわばもうこれは、プロの論文書きのためのアドバイスとでも言うべきであろうか。
いまはタルサ大学で、教員向けのライティングプログラムを創設し、運用しているという。学術論文の執筆支援を行ってきた歩みのひとつの集大成であるらしい。
とはいえ、如何にもプログラム的に、ノウハウが構築されている、と誤解しないで戴きたい。ここにあるのは、サロンでお喋りしているような雰囲気の文章が、表情たっぷりに綴られ続けているだけだ。図表のひとつもない。自分にはこんな経験があるんだ、とお喋りしているのを、読者は黙って聞いている、というような図式である。実に饒舌で、そして経験談として素晴らしい語りである。
要するに、時間をどのように見つけるか。場所をどうすれば論文を書くのに有効なのか。また、メンタルな面が大きいはずだが、つまりはやる気やエネルギーというものをどう捉えたらよいのか。そんなことに対するアドバイスである。
もちろん、論文の内容そのものを扱うわけではないし、メカニックな対処法や便利な整理法などが挙げられているのでもない。人文科学でも社会科学でも、自然科学でもよいのである。そこにはある程度の差異はあるにしても、論文を執筆するという点で変わるものではない。そのときには確かに、多忙な教員事務その他を踏まえた上で時間をどう工面するのか、そのための場所はどうすれば集中できるのか、といった点だけが際立つ野であって、具体的にどういうメモが必要だとか、帰納的な機器を紹介したいとかいう話ではないのである。
最初の方でぶつけられているのであるが、1日15分書きましょう、という点がまず印象に残る。このことは、「訳者あとがき」でも挙げられている。このキャッチフレーズは、なるほど画期的である。1日2時間をつくりたい、と焦っていても始まらない。15分で何ができるのか、そうした心配もあるはずだが、そこへ説得力をもたせる叙述が、ここにある。
その意味では、本書は「考えるヒント」を集めたものである。読んでいてもなかなかピンとこないようではあるかもしれないが、どこか読者のアンテナにビビッとくるものがあるのではないか。それは、その個人が抱える問題点に基づくものであろう。克服できている点と、自分が弱い点とは、人さまざまなのだ。
終盤にくると、だんだん項目がまとめられるようにもなってきて、特に孤立しないためのノウハウは見渡しやすくなっているので、そこまで我慢して読み進んできたら、よしやろう、という気持ちになってくるかもしれない。
ところで、最後に触れられているが、そもそも学術論文というものに、いまどのような価値があるのだろうか。世間には、SNSで気軽に触れられた意見が溢れており、それによって世の中の考えというものが大きく、しかも素早く変わってゆくようになっている。学術論文といえば、専門的に過ぎ、一部の象牙の塔の住人だけがそれを読み解くことができ、ああだこうだと学術的な議論をしてばかりいるのかもしれない。一部のエリートたちの自己満足の場で用いられるばかりで、世間はもっと説得力のある声に動かされ、動画に影響を受けているのかもしれない。
そこでこの学術論文の存在意義は何だろうか。どう動いたらよいのだろうか。著者が言おうとしていることは、これとは違うかもしれないが、そういうところへの問いも漂ってくるような気がしてならなかった。書けば収入があるから書いている、そんなものなのか。何のための学術であるのか。
日本では、学術の場で意見を言ったり書いたりしたら、政府がそういう動きを封じようともした。私たちは、考えさせられる。これから「論文」を書く人々は、誰のために、何のために書くのだろうか。

た
か
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