本

『影の王』

ホンとの本

『影の王』
スーザン・クーパー
井辻朱美訳・小西英子絵
偕成社
\1500+
2002.3.

 ファンタジーは苦手な方である。だが偶には、良質のファンタジーに浸ってみたい、と思うことはある。あまりあれこれ探して試す時間はないので、その道の人に意見を聞き、良い作品を紹介してもらうことにしている。
 今回、現代のファンタジー作家、スーザン・クーパーを紹介してもらったのだが、なかなか書店で出会えなかった。図書館にもあまり置かれていない場合があり、かといってこれらを買い揃える意欲もなかったので、さしあたり出会えたこの書に触れてみたという次第である。
 ファンタジーとは言っても、トールキンのように全くの幻想的な世界に飛び込ませるタイプと、日常的な世界から異世界にひととき潜り込むというようなタイプのものがあるだろう。こちらはまさに後者である。
 演劇に長けた子どものナットは、目覚めると400年前に置かれていた。先ほどまで現代で挑もうとしていたシェイクスピアの劇の世界である。いや、彼はこの昔の世界において、シェイクスピアその人と出会う。
 こういうのはネタバレを起こしてはならないので、ストーリーをここで連ねるつもりはないのだが、ただ、いかにもファンタジー的な部分としては、特別に劇的な仕掛けがあるようには思えなかった。それでも、この本の評価は高かったと言われているが、それも分かるような気がする。日本ならば戦国時代あたりなのだが、当時の世界に陥ったナットの見る世界、体験する町や人々の様子が、実にいきいきと描かれているのだ。違和感を覚えないというと嘘になるが、紛れもなく自分もその時代にタイムスリップしたような気持ちに十分させてくれるのである。
 場面の切り替えは、章により容易に分かる。さして戸惑うことなく、読者はナットと共に、400年の時を超えた体験ができるであろう。わくわくドキドキしながら、その旅を楽しみたい。
 この本は、小学生が読めるように作られている。300頁あるから、小学生にはしばし時間が必要だろうが、大人であれば、短い時間で読破も可能だろう。ただ、これはシェイクスピアについて知らないことの多い私のような読み手だと、せっかくの魅力も十分味わえないままに終わる可能性がある。とくに『真夏の夜の夢』については、詳しければ詳しいほど、楽しく味わえることは確実である。もし余裕があるならば、この際シェイクスピアの本編を読んだ上で、この『影の王』に挑むとよいとお勧めする。二倍に楽しめることは確実である。




Takapan
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