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『賀川豊彦全集5』

ホンとの本

『賀川豊彦全集5』
賀川豊彦全集刊行会編
キリスト新聞社
\1000
1963.2.

 価格は本書に記してあるもの。時代を考慮するとなかなかのものである。実際ハードカバーの、全集と呼ぶに相応しいものであり、古書で手に入れたが堂々たるものである。  賀川豊彦が亡くなって3年後、こうした形でまとめられているのは、多くの支持者の力によるものであると思われる。既に出ていた本をひとつにまとめたというものではあるが、一部は編集を新たにしており、単純な作業ではなかったものと思われる。それだけ、当時賀川豊彦の影響は大きかったのである。
 本巻に収められたものは、「神による解放」「神による新生」「人類への宣言」「神による信仰」の4冊である。解説を見ると、これらは飛ぶように売れたと言われるため、当時はキリスト者に限らず、社会運動をする人々にとっても、賀川豊彦の力を大きく影響を与えていたのではないかと想像される。これらは、社会運動を記したものではない。その運動の背景にある、精神的な背景である、と見ることもできるが、つまりは聖書の解説であり、聖書のエッセンスである。信仰とは何かについて滔々と説くものがあり、信仰生活の手引きを記すものがあり、また賀川としては特筆すべき、新約聖書の感想的註解のようなものがあり、そして旧約聖書に登場する人物を一人ひとり取り上げて、その信仰について自由に語るものがここに集められている。内容豊富であり、実に読み応えがある。
 A5くらいの大きさで、小さな文字でぎっしり二段組みになっている。かなり頑張って読んでもそう読み進めない。これで500頁を超える。
 これらは、大正から昭和の初めにかけての著作である。時代的なものは目くじらを立てるべきではない。差別的な言い回しと今なら感じられるものもいろいろ見られる。だが、差別された人々と共に戦ってきたのが賀川豊彦である。むしろ、その差別の現実を見ているが故の表現なのだととるべきではないだろうかと思う。その時代の常識というものもある。
 むしろ、当時の物価や自殺者の統計など、私たちが知らない数字を時折見せてくれることについて、興味深く思うものであった。当時そうした数字の中で生きてきたからこそ言えることや、考えられたことというものがあるのである。さして今でも変わっていないという面もあろう。キリスト者の人口についても言及があったと思うが、賀川の遺したこうしたデータを、私たちはいま改めて目の前に置くことも必要なのではないかと感じる。  それから、全部読み終わって「解説」に入ったときに、驚いたこと。この解説、もちろんそれぞれの書についての概略や背景を伝えてはくれるのであるが、2頁目からは、本書の内容の各章毎の要約が見事になされていて、もしかすると、内容を知るためには、この「解説」だけで十分だったのではないか、と錯覚してしまうほどである。それほどに申し分のない要約となっているので、本書を読み進める方がいらしたら、この「解説」をガイドにして見ていくと、読みやすいのかもしれない。
 古書店で何冊か賀川豊彦全集が並んでいたので、そのうちの2冊を購入。この一冊は、選んで間違いなかったと思う。




Takapan
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