『科学の扉をノックする』
小川洋子
集英社
\1470
2008.4
教会へ走らせる車のラジオで、毎週お声を拝聴している。本の虫でもあった著者は、多方面に知識が深い。そのラジオ番組では、さしあたり文学に的を絞っているが、この本のほうでは、科学の領域に花が開いた。
著者にしてみれば、科学への興味は、ずっと以前からなのだという。多分そうだろう。私もそうだった。
ここでは、幾多の最先端の科学や技術を研究している人を訪ね、それぞれの訪問記録を一定の範囲でまとめ、紹介する形になっている。
内容もさることながら、その紹介の仕方が、実に粋である。著者自身の関心の窓をはっきり示す。つまり、その科学を、読者が自分勝手に覗くのではなく、あくまでも著者の窓を通して覗き込むのである。だから、読者は、迷わない。著者の選ぶすべての言葉が、適切に用いられ、適切に響いてくる。その窓から見えるものは、読者も誰も同じ景色となっていくからだ。
著者と同じように、科学の現場でドキドキを味わい、ある意味でまた読者自らの体験と照合しながら、説明に聞き入っていく。著者の仕掛けにまんまとのせられていると知りつつ、やはり著者のもてなしに十分応じた形で、心地良くその場を去っていくことを楽しむことができる本なのである。
訪問していく科学者は、渡部潤一、堀秀道・村上和雄・古宮聰・竹内郁夫・遠藤秀紀・続木敏之。
実に愉快で、印象に残るエピソードが並ぶ結果となっている。失礼ながら、やはり言わせてもらいたい。この本、実にうまい。うますぎる。読まなければ損だ、と思わせる。
逆に言えば、科学でも数学でも、人に印象的に伝えるためには、このような文才は、いくらあっても構わないのだ。内容でなく、伝える技術にも注目したいものだ。これは、宗教でもそうだろうし、教育にも言えることなのだろう。