本

『クルマの渋滞 アリの行列』

ホンとの本

『クルマの渋滞 アリの行列』
西成活裕
技術評論社
\1659
2007.7

 なんにでも「学」をつけると学問らしくなる。だがこの「渋滞学」は、そんなちゃちな悪口を完全にはねつける。人類の安寧と平和のために、大きな役割を果たすであろう部門である。
 さまざまな観察とシミュレーション、モデルの選択から理論数値まで駆使して、「自己駆動粒子」の動きと流れについて研究してゆく。たんなる物質ではなく、自分の判断で動く個体の集合が、どのような動きをなしてゆくか、ということである。
 たしかに人間は自由であろう。ひとりひとりがすべて法則に則って動くというものではない。だから、傾向はあっても決定ではなく、ある程度のゆらぎがある。しかし、大きく見て群れとしての動きはたしかにある法則に従うかのように見えるものである。だからこそ、社会学や経済学が成り立っているのである。
 これを、深い考えや判断というよりも、たんなる動き、行列やパニック時の動きということについて、調べ上げるというのである。
 実に面白い。理論的には難解な説明もあるのだが、それをさして気にせずに読み進むと、人間の姿というものを見せつけられるようで、ある意味どこか自虐的に笑ってしまいそうなこともある。
 セルオートマトン法という単純なモデルに始まり、そこから次第に複雑な条件を入れて、実験も含め、思いつくままにあらゆる生活場面を想定して計算する。
 ビルが火事だ。逃げ道をどの大きさに作ればよいか。一つでよいのか。そんな人命に関わる事柄について、人知を尽くすことが、従来なかったようなものなのである。ただなんとなく、非常階段があればよいだろうと、その程度である。
 レジに並ぶとき、踏切の設置や停止方法、もちろん、クルマの渋滞の解消。私たちの日常生活は、なんとこの「渋滞」に苛々させられていることだろう。20年ほど前から現れ始めた「フォーク待ち」はどのくらい優れているのか、数値で表すと歴然とする。しかしそのフォーク待ちの欠点・注意点は具体的に何か。そんなことまで、調べられている。
 街なかで、ちょっと立ち止まり振り返るだけで、どれほど人の列を乱すのか、そんなことまで書いてある。
 私が個人的にこの本に好感をもったのは、ぱらぱらとめくったときに、歩きタバコの害と、傘の胴を握り歩くことの害とが記されている頁が見えたからである。何も気にせず多くの人がやっているこの犯罪的行為は、渋滞という点でも、社会的に迷惑をかけている行為だったのである。つまり、人の歩く流れを邪魔している大変な悪なのである。
 とにかく、従来知らされていなかったようなことがたくさん載っているというだけでも、面白い。そして、自分の行動を振り返る機会にもなる。また、人間の動きを知るとなると、これは政治学にも応用できるような、そんな気さえしてきた。




Takapan
ホンとの本にもどります たかぱんワイドのトップページにもどります