『受験脳の作り方』
池谷裕二
新潮文庫
\490+
2011.12.
この発行の9年前に刊行された『高校生の勉強法』を改題し、増補や改稿も一部あるものだという。かつては、だから「高校生」という限定対応だった。だが、大学受験のためのみならず、高校受験でも社会人の資格試験や昇級試験にも汎用性をもつものとしたのだという。
著者は、ただの教育論者ではない。薬学ないし脳科学の研究者である。従って本書にも、脳科学から言えることとして、根拠付けがなされていると見てよい。また、そのために9年後に改訂がなされた。かつて記した科学的な理論が、その後修正されたとなると、書き直さねばならないわけだ。
ただ、そうすると、本書もその後10年すれば、また脳科学的に誤りを訂正するようなこともなされるのかもしれない。
それはともかく、もはや「高校生」に限るようにはしなくなった訳だが、そこはやはり大学受験という一番華やかな目標は、ベースにあって然るべきものとなっている。
その内容をここで並べるのはよろしくない。ぜひ買って読んで戴きたい。ただ、宣伝はさせてもらおう。
最初は、「記憶」に焦点を当てる。そして、脳の「海馬」に注目する。
それから勉強の実用的な対応に入るが、人は忘れるもの、という普遍的な原理を抑えながらも、そこに「繰り返し」が入ることが大切であるとか、誰かに教えることで自分の理解も進むということとか、当然昔からよくある勉強法が結論づけられるのは、もしかすると読者の期待を裏切ることになるだろうか。
時折、勉強法には一見関係がないかのような、脳の機能や記憶というものの本質などが説明される。その結論というのは、案外オーソドックスではあるのだが、科学的な裏付けがあるということで、読者もその気にさせられるのではないだろうか。
後半で、「睡眠」が大きく取り上げられるが、そもそも「睡眠」とは何か、という次元から、睡眠の前後での学習効果の実験など、興味深い内容が案外多く載せられている。さっぱり寝た後に効果が高いなど、試してみたいことが多い。
やがて、心理学ではないか、というような内容も綴られるが、心理的な根拠を持ち出すのではなく、根拠はあくまでも脳科学である。同じように「前向きな姿勢が大切」と述べても、アプローチが違う。が、先ほど見た修正のこともあるから、くれぐれも過信はしないように。ちょっとやってみた、という程度から始めてはどうだろうか。
特に、子どもの頃の暗記力旺盛な脳の使われ方と、成長してゆくにつれ経験に於いて方法を用いて対処する脳の使われ方との変化、という説明には肯けるところもあった。訳もなくただ覚えるということの強みが、いつしか変化してゆく。神童と周囲に騒がれつつも、ただの人になってゆくことが多い事実の裏付けのようでもある。
自分の中のその変化に気づくような人は稀であろう。子どもに教育を施す立場にある大人が、教育効果を考えるのには適しているかもしれない。子どもには、ほどよく「ただ覚えなさい」ということもあるにはある。他方、「どうしてそうなるかというと」と理解させる方がよいと思う場合もある。その適度な使い分けというのが難しいのだが、そういうときには、教える側と学ぶ側との信頼関係というものが大きく影響する。残念ながら本書には、そうした他者との関係にまで言及することは期待できない。
あちこちに、小さなコラムがあり、脳科学について紹介するようなコーナーがある。読み進む中での憩いのようでもあるが、本書の脈絡と直接関係がないことにも触れる機会として、書く方にも、読む方にもメリットがあるかもしれない。
また、同様に「体験談」があり、よくある考え方や失敗例などの実例が挙げられ、それに対する著者の意見がアンサーとして載せられている。高校生の「思い込み」のような事例の相談は、実のところ確かに「あるある」なのであって、どこかで聞いたような話題や秘訣のようなものも紛れているわけで、さて真実はどうか、というような展開にも、読んでいての楽しみを覚えた。案外、このコーナーが最も面白いかもしれない。やはり、人と人との関わりが、私たちにはいちばん馴染めるのかもしれない。

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