本

『女性とたばこの害』

ホンとの本

『女性とたばこの害』
中野哲
星雲社
\1,400
2004.1

 古稀を前にした医学博士かつさまざまな顧問を務める著者の主張は、簡単明瞭。たばこは百害あって一利なし、ということだ。とくに、女性の害はこの上ないものがあり、それを憂慮している。ありとあらゆる医学データを駆使して、たばこが悪であることを説明しようとする。
 だが、饒舌になればなるほど、いらないことまで語ってしまうきらいがある。この本は、せっかくいいテーマでいい内容をもっておきながら、大変な失敗を犯している。それは、たばこのことから大きくそれて、哲学や宗教を語っていることだ。しかも、あまり知識がない分野に関して。参考文献に挙げられている本も、通俗的なものや、偏ったものがあり、哲学や宗教に関して深い理解を示している様子は見られない。それなのに、この本は第1章で――どうしても自分の思想を述べたかったのだろうが――、滔々とまくしたてる。日本文化や世界宗教に関して、浅薄な知識を並べ立てて御自分の思想を裏づけようとしているばかりなので、この章はなかったらもっとお勧めできるものになったのに、と残念に思う。
 たばこが悪であることは明らかである。結論が分かり切っていることを、長々と論証することほど難しいことはない。それが簡単なことであれば、哲学というもので人間は論争することはなかったはずである。たばこの害をもっと淡々と科学的なデータで示すことが必要だったと思う。
 また、とくに女性だけをという気持ちは分からないことはないが、その思い入れは却って女性の反発を招くことが多いであろうし、逆に男性は自分のことではないと見向きもしないであろう。「女性」の冠を掲げないほうが、やはりよかっただろうと思われる。
 著者の情熱が分からないわけではない。しかし、たばこを止めさせようとする理由として、ああも度々「国のため」「国を滅ぼすから」と繰り返すことは、これまた逆に胡散臭さを読者に与える。せめて一カ所程度に絞ってそのことに触れておけば十分であった。
 おそらく、この本の内容は、その調査データを中心として、図版を多用し、箇条書きに近い形で主張することによって、本当に活きた形で世に問うものとなったことであろう。残念である。




Takapan
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