本

『まんがでわかる 自宅学習の強化書』

ホンとの本

『まんがでわかる 自宅学習の強化書』
葉一・星井博文漫画原作・松浦まどか作画
フォレスト出版
\1400+
2022.2.

 小中学生が登場するが、概ね中学生あたりが適しているだろう。勉強法の指南である。それはタイトル通り、「自宅学習」である。つまり、塾に行くのではないケースである。そのため、主人公の麗奈という女子は、いろいろな事情で塾に行くことのできない立場に設定されている。
 著者は「教育YouTuber」を名のる葉一という人物。この男性がその名で登場し、ネットの中から(というのはネットに吸い込まれてしまったという愉快な展開があったため)麗奈を助けるというストーリーである。
 物語を見せるためにマンガが事情を伝え、葉一がその物語を活性化させていくという具合であるが、その後の細かなアドバイスのために、対話形式で、いろいろなケースが紹介されていく。ストーリーの中に収めきれない内容を、文章で説明するというわけである。
 なかなかよくできた本ではないだろうか。そもそも日々YouTubeにおいて、勉強のアドバイスを発信している著者であるからこそ、子どもたちに何が必要であるかを把握しており、勉強が苦手であるとか、やる気がでないとかいう子に対して、どうアプローチするとよいのかを弁えているのであろう。ストーリーを交えてのことなので、情報からするとさほど多くはないのだが、情緒的にでも、学習意欲を増すような刺激にはなりやすいのではないかと思われる。
 三人の子どもたちを、その学習上の悩みから助けたらネットから戻れるというような、考えられないけれども、いかにもいまの子どもにもウケそうな設定が、なんとも奇妙ではあるのだが、中学生二人と小学生一人の、勉強に対する意識を変えることができたということで、物語はバンザイということになるだろう。すると、読者としても、自分もこんなふうになれるのではないか、というふうに感じるということだ。そしてところどころに、こうすればいい、というような、なかなか説得力あるアドバイスがちりばめてあるため、小中学生本人が見て十分実践へとつながりうるのではないかと思われる。
 しばしば、親のためのアドバイスの本があるのだが、親が言ってもなんともならないからこそ子どもたちは悩んでいるのだし、親が子どもの心を分かっているなどとするのも、とんでもない誤解である。やはり本人が読んで、自ら意識が変わるのがいい。
 まあそこまで具体的でなくても、と思われるような細かなアドバイスも中にはあるが、読者としては、どこかで、自分と同じだ、と感じたらそれでよいのだろう。どうぞ手に取ったなら、勉強の仕方を教えてもらうつもりで、そして自分がこのストーリーの、どこにどのように参加しているのかを想像するとよいだろうと思う。
 塾講師を経てなお、塾に行けない子のために、と立ち上がった著者の心意気には賛同したいし、優しさもたっぷりそこに窺える。だから揚げ足をとるようなことはしたくないのだが、ひとつ、できれば表現を直してもらえたら、と思うところがあった。「僕が特に問題だと思っているのは、勉強が苦手な子って、この自己肯定感がとっても低いこと」(p171)というところだ。極めて断定的で、しかも「とっても」まで付いている。そうだろうか。せいぜい、「自己肯定感が低い場合がある」というくらいで、よかったのではないだろうか。そのうえ、ここから脱出するためにここで持ち出されるアイディアが、「自習ノート」で自信をつける、というものだった。自信のことはよいが、「自己肯定感がとっても低い」という断定を受け、もしかするとそうではないような子がいたとして、ノートで自信をつけよう、と誘われたならば、自分は自信などこれまでなかったんだ、と暗示をかけられたような状態にならないだろうか。苦手な子が皆、とっても自己肯定感が低い、という言葉は、かなり厳しい断定である。子どもにとり、信頼のおける大人が、おまえはこれこれだ、と言い切ってしまうのは、かなり重い。ここは十把一絡げに、決めてしまっている口調であるから、ここまで信頼して読んできた子が、重い気持ちになってしまわないか、懸念するのである。
 万能の普遍的な教育法などない。勉強法もない。その中で、悩む子どもたちは、自分にとっての方法でよいと思っているし、自分の道を指し示してくれたらと願っていることだろう。本書が合う子も、きっといる。だが、強制するような力がなく、結局自律的な営みで勉強をしていかなければならない環境である。いわゆるモチベーションと実行力、継続力といった中で、成果が現れてくるものであろう。自らやる気になれば、それまでやる気が出なかった子はまずは大きなきっかけを得たことになる。だが、その後のエンジンがどう作動し続けるのか、一番しんどいところで、誰かそばに寄り添ってくれて、味方についてくれるというところは、実際上大きな力であると言えるだろう。本書がきっかけを与えられたらそれはそれでいい。同時に、その子の近くに、その子の味方になってくれる人の存在が望ましい。己れだけで己れを律して継続できるほど、小中学生は強くはないと見なしておくべきではないだろうか。本書のストーリーでも、なかなかいい友だちがいるのである。




Takapan
ホンとの本にもどります たかぱんワイドのトップページにもどります